定年後 起業という選択
定年後の針路について
昨年セミナーでも講演頂いた大江 英樹さんは日本経済新聞の電子版に
コラムをもっています。
筆者も隔週で毎週木曜日に投稿される大江さんの記事を楽しみにしてい
るのです。
そのコラムの中に筆者を唸らせた記事がありました。
今回の記事は、大江さんのコラムの内容をご紹介しながら、定年後の生
き方について少しまとめてみたいと思います。
定年後の針路には、雇用延長や転職・自営業を含む起業等様々な方向性
が考えられます。
どのような針路が自分にとって最適なのかは、多くの方が悩むところで
もあります。
針路を考える上で、何かの参考になれば幸いです。
画像素材:フォトサリュ
自分で決められない人生は短命
働き方は人間の寿命にも大きな影響を与えるという説があるそうです。
米コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授の著書
「選択の科学」(原題:The Art of Choosing)にそのことが書いてあり
ます。
大江さんのコラムにも紹介されていた為、筆者も読んでみたのですが
なるほどと思わせるところがありました。
教授の著書の内容は、英ロンドン大学の長年にわたる研究プロジェクト
「ホワイト・ホール・スタディー」が基になっています。
この研究は英国の20歳から64歳の公務員男性約1万人を対象とし、
さまざまな階層に所属する公務員の健康状態を追跡して比較したものだ
そうです。
調査の結果には、筆者も少し驚かされました。
そこには、地位の高くない職業階層の心臓病発症などによる死亡率が、
上級職の3倍も高いという事実が判明しているという結果が記載されて
いたからです。
さらにいうと、階層が上がっていくほど平均寿命が延びるというのです。
その本によれば、その理由は
「選択の自由度に対する認識が健康に大きな影響を及ぼす」
からだそうです。
つまり、自分で物事を判断できる権限が大きいほど健康に良い影響を与
えるということがこの本には書かれているのです。
地位が高い人は責任も重く、大きなストレスを抱えることは間違いない
のでしょうが、
それ以上に
自分で考えて判断することができる、
(自分で)選択の自由を持つ
ことの方が健康上のメリットが大きいということなのです。
これは企業の場合も同じかもしれません。
筆者の会社でも、上司は一般社員よりも元気そうに見えます。
(中間管理職で暗い顔をしている人は確かにいることはいますが…)
会社員は組織の一員ですから、いくら自分で考えてアイデアを提案して
も、上司が認めてくれなければそのアイデアは採用されません。
会社員なら多かれ少なかれこういう経験はするものですが、自分の考え
たことが実行に移せないのは非常に大きなストレスなのだそうです。
一方、社長とまではいかなくても、会社で地位が高い人はそれに伴う責
任もある一方、権限も増大します。
自分で判断して実行できる職務が多いほど、仕事も面白くなります。
この点に生き生きと働く上でのヒントがあるのかもしれません。
これは役職定年で役職を降りた方々が多く口にする言葉、
「権限がないとね・・・」にもよく表れています。
このロンドン大学の研究結果が、全ての職種や企業に当てはまるとは思
いませんが、とても興味深いものだと感じました。
自分で決めることができないストレスは、自主性の高い人にとっては大
きいものかもしれません。
自分で判断し動く 以前の記事でご紹介した「自走人生」 心が晴れます
定年後の起業について
“若いうちは無理でも定年が視野に入っているシニア社員は独立して起業
するチャンス”
このように大江さんは、コラムの中でも書籍でも多くの人に定年後の起
業を勧めています。
昨年11月10日に行われた人生設計力養成講座の中でもお話を頂きま
した。
確かに子供も巣立ち、家のローンも返し終わった方には、経済的な負担
は軽減される頃でもあります。
そういう意味では、起業は定年後の一つの選択肢として捉えることがで
きるかもしれません。
定年後の雇用延長(再雇用)の中で権限がなく、何ひとつ自分で決めら
れない仕事内容に不満を持つ高齢期の方々が多いことも事実です。
「自分で決める」こと自体は個人の認識度にも左右される為、権限だけ
をクローズアップさせ過ぎるのは危険な感じもしますが、自分で決める
裁量権が寿命に関係するということには少し考えさせられました。
全て自分で決める生き方が好きか?
ただ、定年過ぎたら全ての人が起業に向いているのかというとそうでは
なさそうです。
以前とある創業セミナーを受けた際、起業に向いている人と向いていな
い人がいる。
という話を聞いたことがあります。
その判断に使われていたのが、「全て自分で決める生き方が好きか?」
という言葉です。
会社生活に入るといろいろな教育を受けます。
企業人となって受ける教育の殆どは、役職研修にしてもリーダーシップ
研修にしても、組織の中で組織の一員として生きていくための教育なの
です。
そんな教育を受けてきた企業人にとって、そもそも起業という働き方を
知らないのは当たりまえのことといってもいいでしょう。
会社での教育の基本は「決められたことを決められた通りにする」ため
のものです。
そんな教育に慣れ切ってしまった中で、「全ては自分で決める」ことに
違和感のある人は起業しない方が良いとセミナーの講師は話していまし
た。
そういう意味では、定年を過ぎて全て自分の責任で決めて実行すること
に違和感のない人は起業に向いているともいえます。
定年後の働き方は、「雇用される」働き方と「自らの意志で独立する方
法」がありますが、
その基本は「決め方」だということになるのかもしれません。
起業とは自分で決めて、自分で動く(行動)ことを選択する生き方なの
かもしれません。
画像素材:Jim Mayes 志を持って自分の道を行くと決めること
家族の同意は最低限の条件?
筆者の場合、最初は早期退職して55歳くらいで起業するチャンスがあ
りました。
ただその時には家族の反対にあったのです。
まだ3人の子供も大学生、まだまだお金がかかる。
生活のことを冷静に考えてほしいという意見でした。
会社の先輩数人に相談したところ、
答えの殆どは「家族の反対を押し切って起業するのはNG」
というものでした。
結局その時は諦めて、起業準備に時間をかけることにしました。
この時勉強したのは、起業には多くの準備時間が必要であることと、多
くの支援者が必要だということです。
反対意見を押し切って焦ってやるのはまずいと感じました。
そのあと家族からは、地元の創業セミナーの案内をわざわざ送ってきて
くれたりと陰ながら応援をしてくれていることもわかりました。
冷静に考えると子供たち全員が大学を卒業するのと、会社の定年は同時
期でした。
人生とは、とてもうまくできているのだと感じました。
今は無理をしないで良かったと思っています。
画像素材:Jim Mayes 子供たちの成長を考えながら起業も考える
起業の捉え方
地元の創業セミナーに参加した際、地元で起業をしていた講師の方とお
話をする機会がありました。
その方の起業に対する捉え方をお聞きしてみたところ、
「起業に成功も失敗もない。継続あるのみ。ただ・・・」
ただの次に何が続くのですか?と聞くと、
「とはいえ、その継続が大変」
「家族のこと、家計のことを考えると心が折れそうになることもある」
と話をしてくれました。
この起業家の方は40歳代前半、やはり40歳代では子供もまだ小さく、
まさに経済的なリスクが大きい。
定年後はこのリスクはいくらか小さくなる。
起業の捉え方には様々あるのだと感じました。
過去には、起業は若くしてするものというある意味常識的な考え方があ
りました。
50代・60代では遅すぎるという意見も多かったように記憶していま
す。
当然のごとく、平均寿命が60代や70代であれば、それも納得できま
す。
しかしながら、急速に寿命が延びた今、50代や60代でも遅くないの
ではないでしょうか。
体力的には課題は残るにしても、起業のリスクは大幅に下げることがで
きます。
加えて経験を積んで、身の丈にあった起業ができやすいのではないでし
ょうか。
起業の捉え方は、最近大きく変ろうとしています。
事実、高齢期の起業が増えているのです。
セカンドライフの一つの選択肢として。
画像素材:Jim Mayes 継続は力なり
起業は片道切符?
起業したら失敗は許されないのでしょうか。
多くの創業セミナーの講師の方々が、
「小さな失敗を積み重ねる(致命的な失敗は起こさない)」
ということを繰り返し語っていました。
また別の講師の方は、
「起業したら、失敗は許されない」なんてことは絶対ない
「起業を経験した後、その経験を高く評価されて企業に戻る人も多い」
「起業を経験するということは、働き方の選択肢を増やすこと」
ようするに起業は、片道切符ではないといっていたのです。
確かに筆者の出会った起業家の皆さんは、起業した後にオファーがあっ
て、もう一度企業に戻った方が多かったように記憶しています。
起業の経験を高く評価されたのかもしれませんし、起業によって多くの
方に接する機会を得たのかもしれません。
ある説によれば、サラリーマン社長よりオーナー社長の方が長生きなの
だそうです。
オーナー社長の仕事は、サラリーマン社長とは比較にならないぐらい大
変そうに見えますが、これも自由に何でもできるからなのでしょうか。
高齢期の方々が健康を保つ意味でも定年後は起業をして、頭と体を動か
して自分の好きな仕事に取り組む。
「雇われない」生き方を選択することはとても有意義なことなのかも
しれません。
今回の記事も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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