老後をなくす
前回の記事では過去の記事についてのアクセスランキングについてご紹
介したのですが、アクセスランキング1位は「家族」についてでした。
その「家族」に次いでアクセスが多かったのは、「働く」ことについて
の記事でした。
人生が長くなった分、現役で働くことも一度だけではなく、何度もいろ
いろなところで、そしていろいろな仕事を経験できるようになったので
す。
長くなった人生では一毛作ではなく、二毛作、三毛作と何度もやり直せ
る時代になりました。
老後は、働くことをやめた時から始まるのだと説明する方がいます。
確かに働いて現役であれば、老後を気にすることはありません。
ですから、可能な限り働くことが老後を無くすことに繋がることになり
ます。
人生二毛作や三毛作が可能となれば、老後という言葉は無くなるかもし
れませんね。
でもこの国では、60歳の声を聴くと急に働けなくなるのです。
正確に言うと、企業では働けなくなるということになります。
さすれば高齢期になった場合、どこで働くのがいいのでしょうか。
今回の記事では、最近法制化が決まった新しい働き方について読者の
皆様と一緒に考えてみたいと思います。
画像素材:いらすとや
人生多毛作が実現すれば、いろいろな仕事を経験できますね
その中には天職というものに出会える可能性すらあるのではないかと
高齢期での労働の実態
先日ある新聞の朝刊に、気になるコラムが載っていました。
それは、高齢期での労働の実態を記した内容でした。
自治体職員を定年退職した高齢女性のコメントには、この国で高齢で働
くことの難しさがよく現れていました。
その方はシルバー人材センターの会員となり、公共施設で管理の仕事を
しているそうなのですが、請負契約のはずなのに現場では「あれやって」
「これやって」と指示が飛んできてこき使われた挙句、他の人が仕事を
キチンとこなしているかのチェックまでするように言われたそうです。
「おかしい!」と思いながらも、
「仕事があるだけでもまし」と諦めて働くしかない状況がよくわかりま
す。
企業の中で派遣社員が、社員と同じ仕事をさせられるケースに非常に近
いのですが、とにかく横暴な指示や粗末な扱いに閉口している様が記事
からはよく伝わってきました。
この方のお知り合いで同じシルバー人材センター会員である近所の60代
の男性は、真夏のスーパーでの炎天下の作業の末に熱中症で亡くなった
とも記されていました。
シルバーセンターの会員は労災が適用されないそうです。
揚げ句に「体調が悪いなら早く帰ればよかったのに」と言われていたと
も記されていました。
まるで人間扱いをされていません。
使い捨ての道具です。
シルバー人材センターのカタログ等には「やりがいで活躍」と取り上げ
られていることが多いのですが、安くて物言わぬ扱いやすい労働力とし
て扱われている実態がそこには記されていました。
ひどい内容でしたが、おそらくどこに行っても大差はないのかもしれま
せん。
企業で定年後に再雇用されても、事実上「社内失業」しているような
環境で働かされるケースも少なくないと聞きます。
聞けば聞くほどひどい高齢期での雇用、コロナの影響もあってか改善
される見込みはまったくありません。
画像素材:Jim Mayse
老いても美しさや素晴らしさを発揮することは不可能ではありません
高齢期にぴったりの働き方
そんな厳しい状況の中、以前の記事でもご紹介した「労働協同組合法」
がついに法制化しました。
12月4日午後、既に衆議院で可決されていたこの法案は、参議院本会議
において可決され、成立したのです。
ワーカーズコープという新しい働き方の根拠法が制定されたことで、全
く新しい働き方が実現されることになります。
以前の記事でもご紹介したように、この「雇われない」働き方は、高齢
期の皆さんにとってピッタリの働き方だと筆者は思います。
少なくとも、上記のシルバー人材センターの事例のように人間扱いされ
ないようなことにはならないのです。
派遣や嘱託のような不安定な環境を脱することが出来るかもしれません。
自分で起業する為には様々な障壁を乗り越えてリスクを負う必要があり
ますが、このワーカーズコープの場合は、そのリスクを分散させること
が出来ます。
1990年代から始まった「労働者協同組合法制」の研究が、実に30年
に及ぶ関係者の皆さんの研究活動と努力の結果、結実したのがこの度の
法制定であると感じています。
多くの国会議員にも後押しして頂いたこの法制化をいかに活用していく
かを考えた時、多くの課題解決に活かせる可能性があります。
・コロナ禍の収束が見通せず、雇用が崩壊しかけていること
・格差の拡大で貧困が広がっていること(特に女性)
・人口減少と少子高齢化による生産年齢人口の減少
・首都圏の一極集中と地方の衰退
これらの様々な困難を抱える社会に対して、新しく法制化された働き方
が活かせる可能性があります。
今後このワーカーズコープをどのように活かしていくのかを考えること
はとても有意義なことだと感じました。
社会的起業
新たに法制化したワーカーズコープではどんな働き方ができるのでしょ
うか。
一般の企業は営利目的、NPO法人は非営利ですが、ワーカーズコープで
の働き方はそのほぼ中間点、
お金だけでなく、
「(地域の課題を解決しながら)地域と人に役立つ仕事」
「(コロナ禍で疲弊する)社会の役に立つ仕事」
「(今まで蓄積してきた)自分の能力・経験・知識を活かす仕事」
これらが実現できれば、やり甲斐も、生き甲斐も実現できるかもしれま
せんね。
もうそんな働き方をしている方々が全国にはたくさんいるのです。
雇われず、自分で(少額を)出資し、自分の意見を組織の中で反映させ、
自分の能力を活かしながら協同で働く(事業に従事する)。
今回の記事では、実際に広島市で実現しているワーカーズコープを少し
だけご紹介しておきたいと思います。
画像素材:いらすとや
みんなで出資して、みんなで働くという新しい働き方です
広島市での協同労働事業
広島市協同労働プラットフォーム事業は、2014年に市の補助を受け
ながらスタートしています。
その前年に立ち上がった「地域で高齢者の働く場を創出する研究会」が
ベースになり、事業をコーディネートする団体が公募された上で事業が
開始されました。
7年間の活動実績の中で、ワーカーズコープを設立した団体は全部で
19団体。
その内訳は、
生活支援事業(福祉中心) 7
地域活性化事業 3
農業活性化事業 5
防災・復興支援・環境事業 4
これらの事業に参画し、取り組みを進めてきた参加者の想いを一言で
綴ると、
「ここで(地元で)暮らし続けたい」
このブログで紹介し続けてきた「エイジングインプレイス」につながる
想いを確認できたのです。
そして、活動を通して参加者の皆さんが共有したものは、
「地域への想いを伝え合い仲間が結集するチームづくり」
(仲間との協同)
「利用者(顧客)の生活に入り込み関係が深まっていく」
(利用者(顧客)との協同)
「地域の困りごとを地域外に外注しない地域を目指す」
(地域との協同)
(地域外に出なくても暮らし続けるようになる)
それはまさに、協同で組織を立ち上げた仲間や地域との協同作業でした。
このような価値観の共有は、前述のシルバーセンターでの仕事でも、
非正規の不安定な働き方でも実現することはできません。
まだまだ収益面や制度面が不十分であることゆえの課題も多いのですが、
法制化により、根拠法ができればあらゆる面で改善がなされていくもの
と考えられます。
この法制化がなったワーカーズコープという働き方は、長く企業で実績
を残してきた高齢期の方々の働き方にぴったりと合うと思うのは筆者だ
けでしょうか。
協同で働くことにご興味が湧いた方は是非「ワーカーズコープ」のこと
をもっと知って頂ければと思います。
今後の記事でも、このワーカーズコープでの働き方について取り上げて
いきたいと考えています。
今回の記事も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。