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生涯現役は実現するのか

2022年03月12日
24

以前の記事でもご紹介したように高齢期になると働くという大事な行為
に重大な支障が出るようになります。

 

早期退職・希望退職・社内外転籍等々で慣れ親しんだ仕事から離れ、別
の仕事を選択せざるをえない方々が多いのが実情です。

 

国は年金制度改革で70歳迄の雇用確保を義務付けようとしていますが、
企業はそんな事を守るつもりは毛頭ありません。

 

最近は経営者が45歳以上になれば次は自分で考えろというような無責
任な発言を全く罪の意識もなく平気でする状況です。

 

経営者は自分の身の安全は確保されていて、老後の心配も全くないので
そんな発言が出来ますが、このような発言が出来るのはほんの一握りの
人間だけなのです。

 

こんな状況の中、4年に1回調査が実施される総務省の「就業構造基本
調査」に興味深いデータが記載されていました。

 

今回の記事はこのデータを元に進めてみたいと思います。

 

 

 

画像素材:Jim Mayes
先日、大阪に春の訪れを告げる大阪マラソンが行われました

 

 

 

高齢期の有業率

 

 

下図は、総務省の「就業構造基本調査」の中の年齢別有業率の中から
60歳以上の高齢期の方々のデータを抽出し、筆者がグラフにしたもの
です。

 

60歳から5歳刻みで色分けをしてみました。

 

60歳以上と比較検討する為に55~59歳のデータもグラフ一番上に
表示しています。(当然現役世代ということで、有業率は一番高く一番
上に位置しています:青色折れ線)

 

 

 

 

 

 

このグラフを見ると、定年引上げ等による高年齢者雇用確保措置導入の
法的義務化が実施された2004年あたりから70歳以上は除いてどの
年代も有業率は上がっています。

 

そして2004年の法的義務化の穴を狙って再雇用対象者を会社側が限
定した行為を禁止した2012年あたりからまた上昇率が上がっていま
す。

 

逆にいうと、企業は法的な規制がなければ高齢期の雇用を守らないとい
うことです。

 

このグラフを見ると、まだ年金がもらえない人(60~64歳)の有業
率は60%後半です。

 

高くなったと言っても、まだ7割近い人しか働けない狭き門だと言えま
す。

 

そして、今後年金がもらえる年齢が後ろにズレていくことを考えると、
65歳以上の有業率が50%に遠く満たない現状には不安を覚えます。

 

加えると、政府が推奨する年金支給を70歳以上にした場合には有業率
は30%以下と絶望感すら感じる数字です。

 

もう政府は企業に雇用延長を強制しても無駄なことを真剣に理解すべき
です。

 

希望退職や早期退職、それに関連する制度を企業が編み出し、結局苦労
を強いられるのは高齢期の皆さんになるだけだからです。

 

高齢期になって絶望感に悩む人がコロナのように蔓延することになるの
です。

 

このように国の対応だけでは生涯現役等実現できそうにもありません。

 

 

画像素材:Jim Mayes
もうすぐ春ですね~ 筆者が若かりし頃こんな歌が流行りました!

 

 

自治体の挑戦

 

 

国も雇用延長義務を課せたのだからと、企業の早期退職や希望退職を見
て見ぬフリを決め込むだけで何もするつもりはなさそうです。

 

ただ地域は、自治体は、見て見ぬフリはできなさそうです。

 

高齢期の皆さんの惨状を目の前にしている身として、税金を払ってもら
う立場として、放置はできないのでしょう。
(国も税金を巻き上げているのですが・・)

 

前述の総務省の統計を見ると高齢期の有業率に地域差があることが分か
るのです。

 

それも企業が集まる都市圏ではなく、地方の有業率が意外にも高いので
す。

 

そんな中で、地域の担い手として高齢者に「生涯現役」を目指してもら
おうとする動きが広がっている自治体があります。

 

都市圏に若者を吸い取られ少子化が更に加速していく中、限りある人材
を活用しようと生涯現役を推進しているようです。

 

この高齢期の労働、以前の記事にも書いたとおり、健康にも医療費等の
社会保障費の抑制にも寄与することをよく理解しているのは、宮崎県や
福島県、そして山梨県や山形県と都市圏から遠く離れた自治体で有業率
のポイントが上がっているのです。

 

筆者が調査した福島県のホームページには下記のようなメッセージが並
んでいました。

 

「急速に進む高齢化の下で、本県経済の活力を維持していくためには、
高年齢者の技術や能力を有効に活用し、後世に引き継いでいくことが重
要な課題になっています。~(中略)~ 本年4月からは70歳までの
就業確保措置を講じていただく必要がありますので、積極的な取組をお
願いいたします。」

 

とありました。

 

当然のごとくその為の県独自の助成金も整備されています。

 

筆者が注目したのは、上述の形だけの文章の下にあったメッセージ。

 

多くの高年齢者が、活躍の場を求めています。
高年齢者の雇用を是非ご検討ください。

 

法整備だけでは何も進まないことを理解していないとこの短い文章は付
与できません。

 

ハローワークに行っても、就活サイトを見ても高齢期の仕事等見つかり
ません。(掃除や管理人等の雑用の仕事はありますが・・・)

 

生き甲斐や遣り甲斐を感じることができる求人は皆無です

 

そんな中で自治体が高齢期雇用に力を入れたことはとても意味がありま
す。

 

首都圏に近い栃木県は求人情報を提供するのではなく、企業とのお見合
いを推進していました。

 

山梨県は山林保護の為に開拓員として高齢期の方々を活用しようとして
います。

 

まだまだ始まったばかりですが、今迄こんな動きは殆どなかったのです。

 

自治体が動けば、地域の企業も協力をしてくれるはずです。

 

国の意向を聞く気もない大手企業と違って優秀な人材であれば、高齢期
でも活躍できる機会が地域の中小企業には残っているのかもしれません。

 

 

画像素材:Jim Mayes  桜より梅の方が綺麗だと思うのは・・

 

 

エルダー先進企業

 

 

実は国の高齢者雇用支援を実施している公的機関があります。

 

筆者は修士論文に取り組んでいる2016~2017年にこの機関を調
査したことがあります。

 

千葉の幕張にある独立行政法人高齢者・障害・求職者雇用支援機構がそ
れです。

 

この機構は機関誌を出していて、高齢者雇用の先進企業の事例をまとめ
て表彰等も実施しています。

 

同機構が平成29年(2017年)3月にまとめ発表した 「2016
年度版エルダー活躍先進事例集~高齢従業員の特色を活かし、戦力化を
図る~」を元に特筆すべき実績を上げ、表彰された企業を中心に下記に
内容を少しご紹介してみます。

 

注:高齢者、年長者のことエルダーと称することもあります

 

最優秀賞 株式会社 H社

 

業種:きのこ製造販売 社員数:100~150名

 

社員に占める60歳以上の者の比率:58.1%

定年年齢:定年制なし(定年制廃止)

平成26年に経営理念として
「健康寿命90歳へ 90歳まで現役で働ける企業を目指すを目指し、
高年齢者に特化した募集採用を実施しています

経営理念からも安心して働ける環境があるようです。

 

 

優秀賞 有限会社 O社

 

業種:豆腐・惣菜の製造販売 社員数:50~100名

 

社員に占める60歳以上の者の比率:56.2%

定年年齢:65歳 定年後は希望者全員を70歳迄再雇用。

本人に働く意思があり健康であれば、上限なく再雇用しているそうです。

「その仕事、80歳までできますか?」を合言葉に自ら職場環境の改善・
機械化等に取り組む先進企業でもあります。

 

 

2社とも地方にある小さな企業です。

 

両社に共通しているところは、

 

健康であればいつまでで働ける安心を提供しているところと、
高齢者を弱くて能力が低いものと捉えるのではなく
高齢者ゆえの知識と経験を最大限に発揮する仕組みを会社側が考えてい
るところです。

 

筆者は、この2点に高齢者活用の重要なポイントがあると思います。

 

筆者同様大きな企業で働いたことがある人間は抵抗感があるかもしれま
せんが、地方にはこんな人を大事に扱う企業がたくさんあるかもしれな
いのです。

 

こんな企業を地元で探してみることも生涯現役を目指す第一歩になるか
もしれませんね。

 

上記の2社のような生活に密着した製品を手掛ける企業ばかりではなく、
世界に通用する技術を持った企業も地方には多く存在しています。

 

筆者が以前調査したことのある企業の中には、上記2社同様に生涯現役
を経営理念の1つに掲げているところも少なくありません。

 

そんな企業は、定年制を設けておらず、
従業員は現役で働くことを望む限り働き続けることができます

 

早期退職や希望退職で何とか高齢期の社員の首を切ろうと躍起になって
いる企業とは大きな違いがあります。

 

社員を人として扱っていて、根本的に考え方が違います。

 

自治体はこんな高齢期の社員を大事にする企業を優遇し、支援すること
で、地域の高齢期の方々の生き甲斐を創出しながら社会保障費を抑え込
むことができるのです。

 

やっと自治体にこんな動きが出てきたことは嬉しい限りですが、高齢期
の皆さんとのパイプを今後どのように創っていくのかが今後の課題とな
りそうです。

 

まだまだ高齢期の方々が活躍できる時代は遠いのかもしれません。

 

でもこんな地道な活動をしている自治体や企業をもっと支援することで
その実現が早まるかもしれません。

 

今後もこの動きには注視していきたいと考えています。

 

今回の記事も最後までお付き合い頂き、有難うございました。