ディーセント・ワーク
先日、ある政党の党首が不思議な言葉を口にしていました。
参議院選挙が近くなり、選挙対策とも思えるこの言葉をどう捉えるのか
筆者は少し悩んでしまいました。
「真面目に働けば食べていける(社会)」を実現します。
というこの言葉に唖然としてしまいました。
政治家として、それができていない責任をどう感じるのか是非お聞きし
てみたい。
今迄、(高給をもらっている)政治家は何をしてきたのか?…と
与党も野党も本当に国民の事を真剣に考えているのか疑問です
ディーセント・ワークという言葉
読者の皆様は、この言葉をご存知だったでしょうか?
この聞きなれない言葉にはとても深い意味が込められています。
ディーセント・ワーク(Decent Work)は、2009年に国際労働機関
(ILO)の総会において21世紀のILOの目標として提案され、支持され
た言葉です。
この言葉は、1999年に、ILOの当時の事務局長ファン・ソマビアさ
んが提唱した考え方で、
「働きがいのある人間らしい仕事」
と訳されるそうです。
実はディーセント・ワークという言葉は、読者の皆様もよく御存知の
SDGsにも登場します。
SDGsのゴール(目標)8(“働きがいも経済成長も”というテーマ)に
掲げられているこの言葉なのですが、SDGsについて理解している方で
も詳細を知らないことが多いのではないでしょうか。
出所:国連広報センター:SDGsのアイコンから
ILOの指針に基づいた厚生労働省の資料によるとディーセント・ワーク
とは、
人々が働きながら生活している間に抱く願望、すなわち、
(1)働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること
(2)労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いや
すく、それが認められること
(3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医
療・年金制度などのセーフティーネットが確保され、自己の鍛錬もでき
ること
(4)公正な扱い、男女平等な扱いを受けること
となっていました。
この4項目を改めて読んでみると、ディーセント・ワークとは、「社会
的に許されるべき仕事」と訳し直すことが出来るかもしれません。
ただ、この働き方の指針は法律や政府の行動を拘束するものではなく、
それぞれの国の実情に応じた行動計画目標を立てるという原則になって
いるようです。
ようするに国際機関から各国に向けた努力目標ということになります。
あくまでも理想であるとしても、この4項目、この国では夢物語りとい
えます。
労働者の人権が尊重されるだけでなく、
働くことで生活が安定し、
また人間としての尊厳を保つことのできる仕事、
を示す言葉でもあるディーセント・ワーク、
働き方改革が進む(進んでいる筈の)この国でも重要視されるべき考え
方ですが、上記の太字の重要な言葉を非正規という働き方が全てぶち壊
しています。
新自由主義経済という放任経済政策のお陰で利益と富は一部の人間に集
中する営利独占の暴走が止まりません。
営利独占の暴走を止めなければ、この国の将来を担う子供たちの上に
暗雲(貧困と生活苦)が立ち込めることになるのです
その象徴ともいえるのが、流通大手が抱える非正規配達員です。
ギグワークという呼び名の大元になった働き方です。
薄給で不安定な収入、仕事が連続して長時間労働を強制され、人間らし
い仕事とはいえません。
ここで、上記のILOの指針に基づき厚労省が示した項目を一つずつよく
見てみたいと思います。
まず、最初の項目にある「働く機会が与えられ」という項目についてで
す。
確かに有効求人倍率は、1を超えています。
ただ多くの求人は介護や福祉も含めたサービス業に集中しており、「生
計に足りる収入が得られること」ができないものが多いのが実情です。
そして度々記事で扱っているように、60歳を超えて高年齢になると、
働く機会を見つけるにも本当に苦労します。
二つ目の項目である「労働者の権利が保障され」ている職場は非正規の
増加とともにどんどん少なくなっています。
「職場での発言が認められている」職場が極めて少ないことも、不祥事
を繰り返す大手電機メーカや大手銀行の調査報告の内容を聞くとよくわ
かります。
3番目の項目である、プライベートと職業生活の両立ができるかという
点も、男性の育休がなかなか普及しないこと一つみても高い壁が存在す
ることが理解できます。
テレビで報道されている男性の育休についての好事例は、余裕のある大
手企業のパフォーマンスに過ぎません。
最期の項目については、男女格差だけでなく、収入の格差の広がりをみ
ても目を覆いたくなるような惨状です。
なぜ、理想とする姿が国際機関によって明示されているのに、それがで
きないのでしょうか。
それはこの国の施策・政策に強制力がないということと、あったとして
も抜け穴が多く形だけになっていることです。
そして、施策や政策を推進する官僚や役人、政治家は(高給もらって)
全く困っていない為に真剣に取り組んでいません。
困っているのは国民だけなのです。
空を覆う怪しげな雲の様に不安と困窮が国民を包み込もうとしています
世界ではどうしている?
日本はこんな惨状ですが、世界も同じなのでしょうか?
SDGsに定められた17目標の内、ゴール8(働きがいも経済成長も)と
して取り上げられたディーセント・ワークは、1991年〜2015年
の25年間で世界において推進努力された結果、雇用全体で中間層が
34%(約3倍)になる等の成果が上がっているようです。
国によって事情や取り組み方も違い、成果もまちまちかもしれません。
この国のように綺麗ごとで済ませているところもあるのでしょう。
しかしながら、確実にディーセント・ワークという理想に近づける為に
努力を続けている国もあるようです。
そんな中で、ディーセント・ワークの先進国ともいわれているのが以前
の記事でも度々ご紹介している北欧の国々です。
今回は、記事で度々ご紹介しているデンマークと海を隔てた隣国オラン
ダをご紹介してみます。
オランダではパートタイム労働者と正規雇用労働者における「社会保険
の差」「時間あたりの賃金差」をなくすよう取り組んでいて、非正規対
策を実施しています。
正社員とパートタイマーの賃金と社会保険の格差をなくすために「同一
労働同一賃金」制度を導入し、ワークライフバランスにも努めているの
です。
この国でも「同一労働同一賃金」を政治家が進めようとしましたが、
経済界の猛反対を食らって頓挫したままです。
オランダの取り組みはオランダモデルともいわれ、ディーセントワーク
の取り組みを通して国内失業率の低下と経済状況の改善にも成功してい
るようです。
オランダは世界の中でも労働時間が最も短い国として知られています。
労働者1人あたりの労働時間を削減するワークシェアリングの考え方が
古くより浸透していて、日本でもコロナの影響もあってか、ようやく始
まりつつある週休3日制を早くから導入しているところも珍しくないよ
うなのです。
その働き方を実現する為に国は、労働者保護の法制度も確立させていま
す。
例えば、前述の育児休暇ですが、労働者の申請を雇用者は拒否できない
のです。(法律によって拒否することが禁止されている)
ある意味驚きです。
この国のように労働者より企業の方が大事にされるのではなく、国が労
働者を手厚く保護する為に法整備を行っているのです。
画像素材:Jim Mayes オランダといえば風車とチューリップですね
もう一つ大きな事があります。
オランダでは、正規社員と非正規の賃金の格差が法律によって禁止され
ています。
このことが、同一労働同一賃金を実現させています。
オランダでは、SDGsやディーセント・ワークが綺麗ごとではなく、国
としての指針になっています。
オランダではこのように多様性の促進により、男性も女性も子育てや家
事をしながら仕事へ就けるようになったそうです。
その結果、オランダは「子供が世界一幸せな国」と言われています。
是非このオランダの政策を勉強してみるべきだと思います。
政府や自治体に何か期待したとしても、新しい働き方が生まれるとは思
いませんが、このままでは、非正規や雇われないという形でのフリータ
ーという弱い立場の人間が増え続け、ディーセントワークとは対極の粗
悪な働き方が広がっていきます。
なぜ、オランダにできて、日本ではできないのか…
我々は、今、営利独占の暴走を許す新自由主義経済の代わりになる経済
と働き方を見つけ出さなければならなくなったのです。
その為に我々一人一人が、知り、勉強をして、国を変えていく活動を諦
めず行う必要があると強く感じます。
綺麗ごとで終わらせず、諦めず、理想や国際基準に近づける。
このディーセントワーク、子ども達や孫達の世代に残していきたいもの
です。
それが我々の世代の役割であり、責任でもあります。
その為にも適切な政治家を選ぶ選挙に行きましょう。
会社や知人のお願いは無視して、自分の目と耳で選ぶことから始めてみ
ませんか。
それが自分と愛する家族の為になるからです。
今回の記事も最期まで読んでくださり、感謝申し上げます。