人件費はコストか?
最近、米国を代表する巨大企業が軒並み数千人規模のリストラを発表し
たばかりなのは、読者の皆様もよく御存知のことかと思います。
人員削減はIT大手にとどまらず、ディズニー等のエンターテインメント
の業界にも広がりを見せつつあります。
ディズニーの発表記事を読むと、本業のテーマパーク事業は好調のよう
ですが、動画ストリーミング事業の赤字を理由に素早く経営判断したよ
うです。
そのリストラをするとした発表記事には、「コスト節減」とありました。
筆者は、その言葉に一種の違和感を覚えたのです。
“人件費ってコストだったっけ…”
一口に人件費といいますが、その内訳は主なものとして「役員報酬」
「社員の給料手当」「雑給」「賞与」「法定福利費」「退職金」等です。
人件費は、貸借対照表(B/S)の資産には計上されてはいませんが、人
材資産として扱われ「隠れ資産」とも呼ばれています。
ようするに、人件費はコストではなく、事業に活かすための大事な資産
なのです。
人件費は将来の価値につながる人材投資であり、利益を圧迫する単なる
コストではないというのが正しいと筆者は思っています。
ただ最近の経営者の多くが、人件費は企業にとってコストと捉えており、
経営判断をする時にすぐに削減する対象となっているのです。
解雇が容易な欧米では、こんな考え方が当たり前なのでしょうが、この
国ではかつて人件費は大事な資産であったような気がします。
企業は保有する資産をいかに活用して経営に活かすのかが問われる
人(社員)は大事な資産の一つなのです
失われた30年の罪
バブル崩壊以降、失われた10年が20年になり、とうとう30年に
なってしまいました。
その間、雇用を守る代わりに賃金が犠牲になってきました。
ようやく、ここにきて上がらなかった(上がるどころか下がっている)
賃金は見直しがなされる雰囲気は出てきました。
ただ、米国だけでなくこの国でも人員削減の波は大きくなっているよう
な気がします。
コロナで大打撃を受けた航空業界や観光宿泊業界だけでなく、最近は
大手損害保険会社等が大型のリストラを発表していました。
中にはリストラの社外秘情報が外部に流出し、真っ青になっている大手
企業も少なくありません。
そう、リストラ(人員削減)を社外に内緒で実施している企業も少なく
ないのです。
これらの企業では会社に残った社員に対する悪影響は無視できません。
・リストラが常態化すれば、当然のごとく従業員のやる気やモチベーシ
ョンが下がる
・従業員の不安や不満が募る
・離職率が上がる(できる社員から離職していく方向にあるとの情報も)
・一人あたりの仕事量も増えるので職場環境は悪化するかもしれません
・その影響で生産性が更に下がる可能性もあります
・優秀な人材の流出は深刻な問題を引き起こします
・企業の悪い評判が流れると新規採用にも影響が出ます
等々
上記のように人件費をコストと捉えて安易に削減することには大きな問
題が潜んでいます。
もっと問題なのは、人員削減をしている企業が立派な黒字企業で、なお
かつ莫大な内部留保をも抱えているという事実です。
株主の利益の為に、将来の成長に必要な人材を簡単に削減しても良いの
か考える必要があるのではないでしょうか。
コロナショックから立ち直ろうとしている今こそ、人件費をコストとし
て捉えずに、将来への先行投資として捉えるべきなのかもしれません。
画像素材:いらすとや 会社のことを「法人」いいます
会社も「人」なのでちゃんと「人」の顔をしている筈です
でも最近の企業は人の顔をしていないのかもしれませんね
働かないオジサン対策
企業の人員削減の大きな理由として「働かないオジサン」問題があるよ
うです。
給料の割には働きが伴わない中高年の社員を指してこう呼ぶのだそうで
すが、筆者の若い頃はこの年代が一番よく働いていました。
人脈や経験が豊富で一番会社に貢献できる年代であった筈なのですが、
いつの間にやら厄介者にされてしまいました。
なぜこうなったのでしょうか。
ここにも失われた20年問題が影響しているのだと筆者は思うのです。
筆者が若い頃の中高年社員は、みんな目をギラギラと輝かせ、何かに
憑りつかれたように一心不乱に働いていました。
いや、(会社から)何かに挑戦させられていたような気がします。
ところが、バブル崩壊で完全に自信を無くしてしまった日本企業は挑戦
をしなくなってしまいました。
みんな蛸壺に入って静かに災難が過ぎ去るのを待っていたのです。
まさかその災難が、10年、20年と続くとは思いもしないで…
筆者のいた会社も、「経費は使うな」「出張にも行くな」「開発費は無
くなった」と全てが後ろ向きになってしまったことを今でもよく覚えて
います。
失敗しないように(失敗すると処罰される為)、簡単なことを難しく見
せる技術が急速に発達した結果、(挑戦しない為に)海外を中心にした
競合企業に負けていったのです。
結局、挑戦しない、動かない人間が増えてしまった。
その結果の副産物が、働かないオジサンなのです。
働かないオジサンが悪いのではなく、挑戦しなくなった会社の風土・
文化の問題です。
ですから、働かないオジサンを処分しても問題の解決には至りません。
人員削減は、株主の利益は増やしても(維持しても)、会社の発展には
繋がりません。
株主重視のリストラを繰り返す企業に明日があるのかどうかはわかりま
せんが、日本企業の強さの源泉が、「会社と社員がスクラムを組んで突
進する力」であったことを考えると強い日本企業の復活はますます遠の
くような気がします。
画像素材:いらすとや
日本が強かった頃、欧米の企業は日本の技術を恐れたのではありません
会社と社員がタッグを組んで一致団結突進してくる姿に恐怖したのです
筆者は、かつての日本企業の強さの要因の一つに人財育成があると思っ
ています。
人財育成(投資)は、すぐに効果が出るものではないのですが、時間を
かけて育成すれば優秀な人材が育ち、競争力の源泉にもなるだけでなく、
新製品やサービスの開発や生産性の向上が期待できます。
それが、結果として企業の成長につながるのではないでしょうか。
人を大事にする文化を再び醸成することがこの国の経済を復活に導くと
筆者は信じています。
きっと…
今日の記事は、最近新聞記事を賑わす「人材節減(削減)」について考
えてみました。
今回の記事も最期までお付き合い頂き、感謝申し上げます。