在職老齢年金制度を考える
高齢期でも働く方が増えた為に「在職老齢年金」という言葉が広く認知
されるようになりました。
言葉通り、働く高齢者の為の年金のことを指すようです。
その対象は厚生年金だけだということで、年金全体を対象にはしていま
せんが、働いて収入がある高齢者の年金がカットされることから以前か
ら問題になっていたのです。
「キチンと年金を積み立ててきたのになんでカットされるんだ!」
と、高齢者の皆さんの怒りを買っていたのです。
何十年も積み立ててきたのですから気持ちはわかります…
ただ、冷静に考えるとこの制度に理解の目を向けることもできます。
一昔前までは、厚生年金は “働かなくなった方々(高齢者)” に支払われ
るものでした。
ですから、働く高齢者には厚生年金は支払われなかった時代があるので
す。
それでは問題だということでこの制度ができたようですが、改定を重ね
てきた今でも働く高齢者の皆さんからは批判を受けているようです。
来年(2026年)4月からは、(厚生年金の)基本額と働いてもらう
月額報酬の合計額が62万円以上になると、年金がカットされます。
この(年金がカットされない)上限額は、今年(2025年)は51万
円に設定されています。
年金にも(収入の)51万円の壁があるわけです。
この51万円の上限額、今年の1月に50万円から上がったばかりでし
た。
それが、来年には大幅(11万円も)に上限額が上がります。
僅か1年で大幅改定…
働く高齢者からの(年金をカットされることに対する)バッシングは、
相当なものだったことがうかがい知れます。
確かに年金を長い間積み立ててきた高齢者の皆さんからすればトンデモ
ナイ話しではあります。
在職老齢年金の支給停止上限額(厚生年金+働いた報酬の月額)推移
厚労省のデータを元に筆者がグラフ化してみました
働くことを希望する高齢者の意欲を削いできたこの上限額、2027年
以降はどんな数値になるのでしょうか…
ただ、この上限額を引き上げると、当然のごとく年金支払い額の総額は
上がってしまうわけです。
その反面で、将来(今の現役世代がもらえる筈)の年金額は下がってい
くことになるそうです。
ここがこの国の年金制度の大きな問題点です。
筆者も年金をもらい始めましたが、今もらっている年金は自身が積み立
てたお金ではありません。
現役世代が積み立てたお金なのです。
筆者が積み立ててきたお金は、筆者が現役時代の時の高齢者の皆さんに
年金として支払われていたのです。
ようするに、自転車操業をしているわけです。
ですから、現役世代のことを考えると難しい面があることがわかります。
以前の記事で度々ご紹介してきたように少子化を放置してきたツケが回
ったことによって、このような厳しい状況を迎えている訳です。
画像素材:PIXTA 高齢期でも元気だから働きたい…
でも、キチンと働くと年金がカットされる…
不満が…働く意欲が…
制度の上限額を上げていくと若い世代に迷惑がかかる…
なんとも不思議な制度です…
何とかならないのでしょうか…
全ては繋がっている
在職老齢年金の(年金カット)上限額を上げれば、将来現役世代の負担
は確実に上がっていきます。
でも、筆者はこれからも上限額を上げていくべきだと考えています。
まず今、山のようにたくさんいる高齢者が、
その能力に合わせて働いた対価として報酬をもらい、
将来の不安を軽減させた上で消費という形で社会に貢献していく。
その方が、経済が回っていくからです。
株価は高い、
上っ面は好景気のように見えますが、
でも、国民の多くは生活が厳しいと訴えています。
真の好景気の為にも、(元気な)高齢者が働いて、お金を稼いで、消費
をする。
上っ面だけの好景気ではなく、国民全体が好景気を実感できれば、少
子化を改善していくことができるはずです。
少子化に歯止めをかけるタイムリミットは2030年だと言われていま
す。
2030年までは、前向きな投資はすべきではないかと思うのです。
2040年には高齢者の数もピークを迎え、それ以降は高齢者も若者も
含めて驚異的な人口減少にこの国は見舞われるのです。
そういう意味では、この10年くらいが勝負だといえます。
(元気な)高齢者が働いて、
将来の不安を払拭させながら、消費という形で社会に貢献していく
経済が回れば国民全体が潤い、
生活に余裕が生れれば将来の夢を持つことができます。
そうすれば、少子化も改善していきます。
人口減少に歯止めがかかれば、将来の社会保障(互助の力)にも明るい
光がさしてきます。
局面だけを見れば、在職老齢年金の(年金カットの)上限額を上げてい
けば、現役世代の将来の負担は増えていきます。
しかしながら、上限額を据え置いたところで将来を変えていくことはで
きません。
この国を復活のループに導く為に、この国が現有する資源である「(元
気な)高齢者の皆さん」を使い倒すのです。
以前の記事でもご紹介したように、日本人の勤労意欲は諸外国と違って
異常に高いのです。
このブログを始めた頃にご紹介した国別の勤労意欲のグラフです
きっと今でも「歳をとっても働きたい」と思っている方は多い筈です
上図は、OECDが2010年に各国の60~64歳までの男性を対象に
雇用に対する意識を調査した結果を筆者が図式化したものです。
もう15年も前の統計数値ですが、今はこの76%という高い数値が
もっと上がっているような気がします。
それもその筈、日本人は元々農耕民族です。
大昔は、みんな死ぬ迄現役で働いていました。
その遺伝子は我々の身体の中に染み付いているのです。
そして、大昔からみると寿命は飛躍的に伸びました。
いや、伸びてしまったのです。
この国が高齢者をどのように扱うのかによって、この国の将来は決まる
と筆者は考えています。
年金をできるだけ絞って、高齢者をぎりぎりの状態で生活させればどう
なるのか?
元気な高齢者を「社会が支える存在」として扱うのか、
それとも
「社会を支える存在」として活かすのか(こき使うのか)
一つだけハッキリと言えることは、この国の元気な高齢者を活かせれば、
この国は良くなるということです。
(元気な)高齢者をこの国のハブにできるような考え方があれば、在職
老齢年金のあるべき姿はハッキリする筈なのですが…
でも、近視眼的な考え方しかできなくなっている方々がどう判断するの
かは難しいところですね。
最近の記事で、高齢者が能力に合わせて働くことの意義を訴えたところ、
逆に働けない様々な制限もあるんだよとご意見を頂きました。
在職老齢年金もその一つです。
働ける状態にありながら、働きたくなくなる、
働く意欲を削られる、
そんな悪い制度であるのかもしれません。
一つずつでも、その壁が無くなっていけば、もっと良い国にしていける
筈です。
諦めない限り…
今回の記事も最後まで読んでくださり、感謝申し上げます。





