街を変えるコーディネータの必要性
前回、前々回の記事では、新型コロナウイルスのような疾病対策の為に、
コーディネータが必要だとお話をさせて頂きました。
今回の記事は、高齢化に伴い街をどうつくり変えていくのか、
そのヒントはどこにあるのかを皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
高齢化を迎えている街には、様々な課題が表面化しています。
特に都市郊外にあるニュータウンでは、急速な高齢化の為に解決しなけ
ればならない課題が多く顕在化してきているのです。
高齢になっても、住み続けられる住まいと街をどのようにつくっていく
のか?
住まいと街をどうやって変えていくのか?
居場所づくりの為に何をすべきなのか?
我々の身の回りをどうつくりかえたらHAPPYになれるのか?
今回の記事では、そんな課題の解決について考えてみようと思います。
その為には、建物だけでなく、建物と建物の間の空間をどうつくり変え
ていくのか。
街の仕組みをどうしていくのかも含めて考えることが必要です。
筆者は、その為にも、とにかく多くの人の意見、考えを使って良いテス
トパイロットをつくることが重要であると考えています。
良いものができたら、次々と真似をしてもらう。
次々によいものができたら、街が活気づく。
そんな上の方向に上がっていくような元気の良いスパイラルを描く取り
組みを創っていければ、街の活性化につながっていくのではないでしょ
うか。
そのためには、街の課題を解決しながら街をより良くしていくコーディ
ネータが必要ではないかと思います。
ニュータウンの現状
先日、多摩ニュータウンの中を歩いてみました。
皆さん、多摩ニュータウンを「多摩ニュー」(以降多摩NT)と呼んで
いるみたいです。
多摩NTは、多摩丘陵を切り開いてできた大規模な街です。
日本の都市近郊には、多摩NTのような大規模な団地が存在しています。
多摩NTというのは、山の東側でできていて、南北に山と谷が存在して
います。
山を削って山の尾根筋に団地をつくって、山の谷筋に道路をつくって
います。
結果的に車と人が分離する「歩車分離」を実現しているのです。
団地ができたころ、そう高度経済成長期に大きな社会問題になっていた
交通事故を予防できる効果があったわけです。
当時としては画期的な考え方が導入されたわけなのです。
しかし、今どうなっているかというと、
山の上の団地に住んでいる高齢者の方が苦労して山登りをして家に帰ら
なくてはならなくなっているのです。
古い団地では、団地の建物にエレベータを後付けして、高齢者の生活支
援をしているところがあります。
この山登りをエレベータやエスカレータを設置して解決するというのは、
経済的にみても余りにも課題があり過ぎます。
今までは駅からバスに乗り、バス停で降りて、買い物をして、山登りを
して家に帰る。
ようするに、移動手段のポイントであるバス停とバス停近くの店舗と山
の上の家がバラバラに存在している状態でした。
ロケーションがバラバラということは、機能もバラバラということにな
ります。
人々がまだ若い頃は、これで何も問題がなかったわけですが、人々が
高齢化するとこの機能がバラバラということ自体が課題となってしまい
ます。
街が高齢化していく中で、機能をもっと融合させることができないか?
機能と機能がもっと近くにあれば・・・
そう考えている高齢期の方々も多いのではないでしょうか。
そこで、今ある機能をもっと近くに持ってきて、もっと便利な街にでき
ないかという考え方ができます。
多摩NT:筆者撮影 確かにバス停から家に帰る為には山登りが必要です
近接性が解決するもの
機能を融合させる。
機能と機能を近接させる。
何と何が近くにあれば、生活が便利になるのか?
生活の質が上がるのか?
困っていることが解決するのか?
コンパクトシティという考え方があります。
分散するのではなく、住む場所も含めて街の機能を中心に集めていく考
え方です。
国や自治体が推し進める「コンパクトシティ構想」は、社会インフラの
整備費や維持管理費の低減という面では、確かに自治体の財政を改善
する可能性を持っています。
ただ、「住み慣れた家と街(地域)で最後まで暮らしたい」という個人
の要望とは反比例するのです。
だから多くのコンパクトシティの実験では、成功事例を見ることはでき
ていません。
自治体の財政を傷めないで、
「住み慣れた家と街(地域)で最後まで暮らしたい」
という個人の要望を満たす方法はないのか?
例えば街の中で増えつつある空き家や空き店舗。
街中の空き家や空き店舗を活用した機能集約ができれば、
機能の近接化が可能かもしれません。
それは常時稼働していなくてもいいかもしれないのです。
また、機能が移動する形でも対応が可能になるかもしれません。
買い物難民をどう救うのか?
小売店の撤退や高齢期の自動車運転免許の返納等で、食料品などの買い
物に行けない高齢者が増えているそうです。
農林水産省の定義では、生鮮食料品店まで直線距離で500メートル以上、
かつ65歳以上で自動車を持たない人を「買い物弱者」と設定していると
のこと。
でも、その数は全国で825万人にも及ぶそうです。
当然のごとく、今後の高齢化の進展で、その数は増えていくことになり
ます。
特に夫に先立たれた高齢女性の単身者の場合、運転免許を持っていない
場合が多く、食材のまとめ買い等は親族の支援にたよらざるをえない場
合が多いようです。
食材はただ生活をしていくだけではなく、高齢になると食材選び(買い
物)そのものが生きる楽しみである場合もあります。
他人に任せるのではなく、自分で見たものを自分で選ぶのが楽しいと
いう声もあるようです。
少子高齢化による消費減の影響で小売店が撤退してしまった地域では、
移動手段を失ったとたんに日常生活が一変してしまいます。
その影響を受けるのは、やはり高齢期の方々や障害をもつ方々であること
は間違いありません。
そしてこの問題は、意外にも多くの問題を同時に発生させる可能性すら
あり得るのです。
ただ、単純に買い物の不便さだけでなく、
外出頻度の低下による運動不足や買い物による生きがいの喪失、
遠い商店に通う途中での転倒など事故のリスクも増大する。
特に多摩NTのような起伏の激しい所では、そのリスクも大きくなってし
まいます。
買い物に行けない為に起こるリスクは運動不足だけではありません。
食品の多様性の低下による栄養バランスの悪化や低栄養化、
そして、それに伴う医療費や介護費等の社会保障費の増加の懸念もある。
国が介護保険を使って、介護予防をしてもこれでは本末転倒になって
しまう。
この買い物難民の救済にこそ、「機能の近接」という取り組みが、効果
を表すのではないかと筆者は思うのです。
機能集約の場づくり
子供たちが街から出ていき、人が少なくなると消費が少なくなり、
小売店は採算が悪化して撤退していきます。
そんなところに新に店舗をつくるとなると、大変です。
当然のごとく店舗運営には、家賃のほか従業員の人件費等の固定費が
かかる為に存続にはどうしてもお金が必要となります。
そこで、空き店舗を活用するのですが、その場所は買い物だけをする
場でなくてもいいはずです。
そう機能をたくさん集約させた場所にするのです。
空き店舗をそのままにしても、住宅公団等の家主には収益は入ってきま
せん。
今は、地域の活動家がコミュニティの場としてカフェや子育て支援の場所
として活用したりしていますが、「機能の集約(近接)」でもっと活用
範囲を広げることができないかと筆者は考えています。
例えば、地域のスーパーマーケットと連携して移動販売車を決まった時間
帯にその場所で営業をさせる。
今はネットスーパーの普及も進んでいるために、朝店舗内のパソコンで
発注し、移動販売車が運んできた商品を団地内で夕方受け取る。
こんな形で、一つのスペースに機能を集約する。
カフェや地域活動拠点と併設でも構わない。
ここに地域の行政の支援があれば、この活動は増えていくかもしれませ
ん。
それには、行政の支援を受けたコーディネーターの存在が欠かせません。
どのように機能を集約(近接化)させるのかを考えるブレインが必要なの
です。
高齢社会対応型のコーディネータ
地域包括ケアシステムの拡充が進められています。
街の中にも、地域包括センターが多く整備されるようになりました。
ただ、この地域包括システム、意外にも全てを熟知している人はいない
のです。
地域包括ケアシステムの図 厚生労働省のHPより
「医療」「介護」「生活支援」そして「住まい」と、厚労省が示す図に
書かれていることを全て理解して、コーディネートできる人材は殆どい
ないのが実態なのです。
医療、介護、福祉以外に家のこと、そして地域で生活をしていくこと
全てを地域の特性に合わせてコーディネートできる存在が必要です。
これから高齢化していく街を、そして高齢者の皆さんをサポートするこ
とが可能なコーディネータの登場が必要になってきたと強く感じていま
す。
地域の「自覚者」の皆さんの中からコーディネータが生まれ、その数が
増えていく。
そのコーディネータが、今回のコロナウイルス禍のような疾病対策や
災害対策の知識を持っていれば、高齢者の皆さんを救うことができます。
街を良い方向へと変えていくスパイラルの力が大きくなった時、街は少し
づつ変わっていくのかもしれません。
今回の記事も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。