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空き家問題を考える(1/2)

2020年07月17日
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筆者は定年退職した後、13年ぶりに兵庫県の自宅に戻りました。

 

家の前の公園には、以前記事でもご紹介したように放課後の夕方になる
とたくさんの子供たちが遊びに来ます。

 

一見、街そのものが元気なようにも見えますが、実は大きな問題を抱え
ていることが分かりました。

 

筆者は朝早く2階の自室から1階の書斎(オフィス)に出勤しますが、
夕方家の中の掃除を済ませると街の中を散歩するのが日課となっていま
す。

 

丘陵地を切り開いてつくった街なので、起伏があって良い運動にもなる
からです。

 

そんな散歩の最中に少し寂しい風景をよく見かけます。

 

その風景とは空き家です。

 

今回の記事は、高齢化する社会と街の中で大きな問題になりつつある
空き家について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 

 

空き家の実態

 

 

総務省が昨年(2019年)発表した2018年10月時点の住宅・土
地統計調査によると、国内の住宅総数に占める空き家の割合は過去最高
の13.6%だったそうです。

 

地方を中心に人口減少などで空き家が増え、戸数も最多の846万戸に
なっていると調査報告には記載されていました。

 

確か筆者が大学院で研究している2016年くらいには、空き家率が
11%を超えていると大騒ぎしたことがあるので、短い時間でまた大き
く増えていることになります。

 

政府は中古住宅の活用や老朽化した空き家の撤去を促す政策を相次いで
導入し、自治体に対して空き家の増加に対応するよう求めていますが、
ごみ屋敷のように地域で大問題になっているような事例しか対応ができ
ていない実態があるようです。

 

筆者の街でも、この空き家問題は静かに、そして確実に進行しているよ
うです。

 

実は、筆者が家に戻って一番苦労したのは家の手入れでした。

 

長年放置した罰かもしれません。

 

2週間かけて庭師状態でようやくまともな姿に戻りましたが、庭の手入
れをしている時にあることに気付いたのです。

 

庭から見える斜め裏手の家の雨戸がいつ見ても閉まっている。

 

お付き合いは殆どなかったお宅なのでどんな方が住んでいたのかよくわ
からない状態でした。

 

散歩のついでに見に行くと、1階も2階も雨戸が閉まっています。

 

でも、車庫には車が置いてある。

 

やっぱり誰かいるんだと思い、数日見ているとやはり車が動いた形跡が
ない。

 

何か変だと思いながら、他の地区も見に行ってみました。

 

 

水面下で進む深刻な状態

 

 

筆者の住む街は、街全体で約2500戸 家があります。

 

マンションやアパートは1軒もなく、オール一戸建ての街です。

 

 

 

街から少し離れたダム湖から街の一部を臨む(筆者撮影)
丘陵地を切り開いた東西約2Km南北約1Kmの細長い公園の多い街です

 

 

 

何日かかけて調査してみると、意外と空き家が多いことが分かってきま
した。

 

大体1地区(区画)14戸~25戸くらいのブロックに分かれているの
ですが、ブロックの内に1戸程度の空き家があることが分かりました。

 

多い所では、ブロックで2~3戸の空き家が存在するところもあります。

 

数軒は、売却の看板があった為、何かの事情で転居したことが分かりま
す。

 

そして空き家は、見るとすぐ空き家と分かる家と、よく見ないとわから
ない家がありました。

 

よくよく見てみると、空き家の中でも防犯上と考えられる「空き家と分
からないようにする工夫」がしてあったのです。

 

それは車の設置です。

 

雨戸は閉まっているが、車は置いてある(殆どが軽自動車です)。

 

中には、一部の雨戸だけが開いている家もありました。

 

住んでいる方が亡くなられたのか、それとも高齢者施設に入ったのかは
分かりませんが、誰かが管理しているようです。

 

車を設置する等、防犯上の工夫がしてあるようでした。

 

車があって、一部でも雨戸が開いていれば誰かが住んでいて泥棒には
入られない。

 

そして、そんな家は庭や家の周りも比較的綺麗に整理整頓されていま
した。

 

そしてポストには、広告チラシの類が溜まっているのがわかりました。

 

 

地域の価値を下げる深刻な状態

 

 

まだ上記のように管理されているのがわかる空き家はいいのですが、
明らかに空き家とわかる家も結構ありました。

 

そんな家は遠くから見てもわかるのです。

 

 

玄関前の植栽が伸びている場合は遠くから見てもすぐわかります
雨戸も閉まったままで、庭も雑草だらけです
もう空き家になって随分経つかもしれません

 

 

庭にある樹木は伸び放題。

 

雑草も伸び放題。

 

玄関近くには自転車や園芸用品が放置されているために明らかに空き家
と分かります。

 

ただ表札だけが寂しそうに目立っています。

 

中には幽霊屋敷化したものもあります。

 

人が住まなくなると、家の外壁はボロボロになるのだとわかりました。

 

「家は人が住まないとすぐ朽ちる」という定説は事実だと理解すること
ができました。

 

こんな家は、周りに人が住んでいる地区の中では、とても違和感を漂わ
せています。

 

実際、周辺の家の方は困っているのではないでしょうか。

 

明らかに地域の景観を損なっているのは事実でもあります。

 

でも、なんともできない。

 

それが日本の空き家問題なのだと感じました。

 

筆者は街の調査をしていて、あることに気付きました。

 

筆者の街は中央を通る幹線道路によって北と南に街区が分かれています。

 

南の街区から分譲が始まり、北の街区へと分譲が進んでいきました。

 

分譲初期の南の街区の方が空家率が高く、比較的新しい北の街区では空
家率が低くなっていました。

 

南の街区で車庫に置いてある車の多くは、高齢者マークが付いていまし
たが、北の街区ではそのマークが見当たらず、一軒当たりの保有する車
の台数も多いことにも気付いたのです。
(多い家では3~4台も車を保有していました)

 

そう南の街区には夫婦だけの後期高齢者の方が多く、北の街区にはまだ
子供さんが社会人として家に残っているのです。

 

北と南の分譲時期の格差は大きいところで約10年あります。

 

この10年に大きな意味があることに気付かされました。

 

 

 

南の街区のあるお宅には広い駐車場にポツンとシニアカーだけが置いて
ありました

 

 

 

あと10年すればどうなるのか

 

 

この空き家の前で呆然と立ちすくむ筆者の横を自動車が通り過ぎ、近隣
の住民が家に戻ってきました。

 

やはり年代的には、70歳を過ぎた方だとわかります。

 

この街ができたのは、1980年頃。

 

入居年齢が一戸建てを購入できる最短の30歳代だとしても、40年を
経過した今、住民の年齢は70歳を超えて、80歳に届くような状態で
あることが分かります。

 

筆者がこの街に引っ越してきたのは、1990年代。

 

2000年頃にはほぼ分譲が終了していたことを考えると、あと10~
20年で住民の殆どが70歳を超えていきます。

 

以前の記事でも述べたように男性も女性も後期高齢者の域に近づいた時に
大きく身体変化が起き、自立生活が難しくなります。

 

ここでもう一度、以前の記事でご紹介した人の自立度の変化を示しておき
ます。(東京大学の長期追跡調査データ)

 

男性と女性の場合、少し違いがありますが、後期高齢者の域に入れば
それなりに覚悟と準備が必要です。

 

 

 

男性の場合、パターンは3つ
90歳近くまで元気な男性も10%くらいいますが、約20%の人は前期
高齢者の域から体調を維持できなくなっていきます
そして、大部分の方々が後期高齢者になる前に大きな変化を体験する
ことになります、

 

 

 

女性の場合は、2パターン
元気な方が多いながらも後期高齢者となってからは緩やかに
そして確実に心身は弱っていきます。

 

 

男女とも後期高齢者になるころから、確実に自立生活が難しくなってく
るのです。

 

そして、この空き家問題は、高齢化とともに必ず顕在化するものなので
す。

 

 

理想は多世代同居の街

 

 

しかしながら、公園で遊ぶ子供たちを見ると、この街で育った子供たち
が一旦街を巣立った後に、再び街に戻ってきて子育てをしているようで
す。

 

筆者の家の並びにもそういう家庭があります。

 

親から子供へ家ごと引き継ぐ。

 

そんな形でも、多世代が住む街にできれば街が老いることを防ぐことが
できます。

 

日本の郊外を開拓してできた街は、分譲する事業者の都合で一時期に
一挙に販売され入居が進みます。

 

筆者が住むこの街は、全戸一戸建て。

 

購入する為にはそれなりの財力が必要です。

 

そのために購入する人の年代は似通ってしまいます。

 

そして似通った年齢の人達が多く住む街は、一気に老いていくのです。

 

筆者がこの街を選ぶ時には、全戸一戸建てが魅力でもありました。

 

若者が住むマンションやアパートがあると、騒がしく治安が悪くなると
思っていたのです。

 

でも今考えると、もっと多様性をもった街の方が良かったと感じていま
す。

 

ただそれは無理もないとも感じています。

 

誰も自分が歳をとることを考えて家を建てていないからです。

 

街開きから40年が経ちました。

 

当時は、夢のマイホームを建てて、自信に満ち溢れていた人たちは、高
齢化という難問に直面しています。

 

だれもこの高齢化の有効な対処方法を知らないのです。

 

だから空き家問題も放置されるのです。

 

 

今回の記事はここまでにして、次回の続編ではなぜこの空き家問題が改
善できないのかを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

 

 

今回の記事も最後までお付き合い頂き、感謝申し上げます。

 

 

次回の続編も是非お付き合いください。