定年後コミュニティという考え方
筆者は、大学の研究所で勉強していたころからたくさんの介護施設で勉
強をしてきましたが、実は「アンチ施設派」なのです。
できれば施設に入らずに、住み慣れた地域と自宅で家族に囲まれながら
生涯を全うする。
そんな人生をどうすれば実現できるのか?
そんなことを追い求めています。
少し弱っても、地域で医療や介護等のサービスを受けながら、住み慣れ
た自宅で暮らし続ける。
そんなコンセプトを持って生まれたのが、「地域包括ケアシステム」で
す。
もう全国にたくさんの地域包括支援センターが整備されました。
高齢化の進展と共にその役割は増すばかりですが、近年地域包括ケアと
共に脚光を浴び始めたのが「日本版CCRC」です。
CCRCって何? と思われる方が多いのではないでしょうか。
CCRC:Continuing Care Retirement Community
直訳すると、継続介護付きリタイヤメントコミュニティという風な言葉
になるでしょうか。
アメリカで生まれた高齢者コミュニティのことで、日本の施設のように
体が弱ってから入居するところではなく、元気な高齢者が住む街のこと
を指します。
結構歴史は古くて、コミュニティに入居した高齢者は提携している近隣
の大学で勉強したり、コミュニティを運営する民間企業が用意したプロ
グラムに参加したりするようです。
ゴルフ等のスポーツを楽しんだり、少し働いてみたりと自分の好きなこ
とをしながら人生を愉しんでいるようです。
以前の記事で、日本と米国の年齢別幸福度をご紹介したことがあるので
すが、このように高齢期で人生を愉しんでいるアメリカ人は年齢が高く
なればなるほど幸福度が上がっていきます。
日本人はというと、下図のように高齢になればなるほど幸福度は下がっ
ていきます。
なぜ、こんなことになるのか?
やっぱり、この国の福祉政策が間違っているのかもしれませんね。
弱ったら施設へ行くという常識は間違っているのかもしれないのです。
日本版CCRCはそんな問題を解決するのかもしれないと感じています。
実は裏の思惑が
日本版CCRCが脚光を浴びてから早くも7年が経ちます。
2014年内閣府に「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、今回
の総裁選で最後まで出る、出ないで注目を浴びた石破茂氏が地方創生大
臣に就任した時に出てきた言葉です。
その時に日本版CCRCが地方創生のおいて取り組むべき施策の一つとし
て盛り込まれた為に注目を浴びたようです。
筆者も地方創生のセミナーで当時の石破大臣のお話しを聞いたことが
あります。
この日本版CCRCは、「生涯活躍のまち」という副題までついていて、
中高年者に新たな生活の中で健康寿命を延ばし、人生をより充実できる
機会を提供する取り組みだと位置づけられました。
でも、この日本版CCRCには実は裏に綺麗ごととは全く違う思惑がある
ようです。
「生涯活躍のまち」とも呼ばれる構想は、東京圏をはじめとした都会に
住む中高年者が、下記に示したような条件が揃った地域に移住する為の
環境整備を目指すものだったからです。
希望に応じて地方や「まちなか」へと移住できること
多世代の地域住民との交流を深めること
健康的かつアクティブな生活を送ること
必要に応じて、医療・介護サービスが受けられること
ようするに首都圏を中心とした都市から地方への移住が主な目的のよう
なのです。(場合によっては都市圏内のまちに移住)
その背景には、東京一極集中で(人口減少等により)疲弊した地方の再
生とこのブログで度々ご紹介している2025年問題対策があります。
首都圏で爆発する後期高齢者を対象とした医療・介護問題を地方への移
住で回避しようと考えているのです。(あくまで希望者だけですが)
こんな裏がある為に、一部の識者からは「現代版姥捨て山」と批判され
たこともあったようです。
画像素材:いらすとや 民間人が宇宙に行ける時代になりました
将来は月に移住するなんて話が出てくるのかもしれませんね
この日本版CCRCは現在日本全国で100を超える事例があります。
米国版CCRCの運営主体は民間企業ですが、日本版CCRCの運営主体は自
治体です。
ただ、自治体から社会福祉法人や医療福祉法人に運営主体を移して委託
事業として実施されている為に、実質的には民間が実施しているのと同
じです。
その為に、コミュニティの中心は医療施設や介護施設となってしまい、
そこに集まる人たちは元気な高齢者というよりは弱った高齢者が中心に
なっているようです。
だから今まではなかなか進まず、知名度も上がらなかったいう実態があ
るように感じます。
でも、今回のこのコロナで事情は大きく変わりました。
”テレワークできるなら、首都圏に住む必要はない!”
そんな言葉が象徴するように、地方への移住が進むかもしれないのです。
この日本版CCRCにも再び脚光が浴びる可能性が出てきました。
画像素材:フォトサリュ 東京一極集中で地方は人口減少が深刻です
筆者は地方再生の鍵を都会に住む高齢期の方々が握っていると思います
若者より高齢期の移住を進めるべき
筆者は、この移住対象者は親の介護が気になってきた定年前後の世代が
最適ではないかと考えています。
親の介護が気になり始める50代から一旦は定年を経験する60代がい
いと思うのです。
まだ体も元気なうちに、
そして企業内での出世争いも決着がつき、次の事を考えなければならな
くなったこの時期に、
セカンドライフの方向性を見極める上でも再チャレンジをしてみる良い
年代だと感じるのです。
米国版CCRCと同じように、元気な高齢期の方々に入居してもらうよう
な「まち」をつくる。
そこには、セカンドライフに向けた学びの機会があり、
自分の経験を活かして働く場所もある、
それを親の健康寿命を延ばしたり、認知症予防・介護予防をしながらで
きればこれ以上のことはありません。
日本の施設は、介護が必要になった段階で入居する場合が殆どです。
それに対して、日本版CCRCは高齢期の方々がまだ健康な段階から
「まち」に入居し、
ご自身の健康寿命をも延ばしつつ、
心配だった親御さんの面倒をみながら、
自身のセカンドライフを考え、
そして構築していくことができる
そんな取り組みになれば、地方への移住も進むかもしれません。
それは地方創生に向けたこの国の新しい「まち」創りになるかもしれま
せんね。
さらに深く高齢化していくこの国にとって、本当に必要な「まち」とも
いえるかもしれなません。
この日本版CCRC、まだまだ実験段階の領域のようですがこれからどの
ように進んでいくのか筆者もとても興味があります。
もう、弱ってから高齢者施設を見つけて入居するようなやり方はやめる
時代がきているような気もします。
そんな日本版CCRC、様々な文献や論文を読むと理想的な言葉が並んで
います。
今回の記事の最後にその理想形について少しご紹介してみたいと思いま
す。
筆者は医療や介護施設ばかりが目立つCCRCには反対です。
ですからCCRCの理想には賛成なのです。
◆ソーシャルミックスコミュニティを基盤とした協働
今迄の日本のまちは、街ができて一斉に入居するために入居世代が似通
り、住民とともに街自体も高齢化していきました。
同じ世代が集まって街をつくるのはとても危険です。
以前の記事でもご紹介した「ソーシャルミックス」が実現できるまちづ
くりが大事だと思います。
日本版CCRCが目指す「多世代の地域住民と交流」
その為に、多世代交流センターや地域サロン、大学等との連携によって
入居者間の交流だけでなく、地域の若者をはじめとした多世代と交流で
きる環境が整えられるべきです。
以前の記事でもご紹介した千葉県幕張のまちにはそれが整備されていま
した。
幕張にはモダンな建物だけでなく、多世代が交流できる施設が整備され
ていました
◆継続的ケアの確保
移住してきた高齢期の方々が医療や介護を必要とするようになった時に
は、人生の最終段階に至るまで尊厳のある生活を送るための「継続的ケ
ア」を確保しなければなりません。
その実現のためには、地域医療機関の連携はもちろん、日本版CCRCを
運営する事業者もしくは地域の介護事業者の介護サービスを確保するこ
とが求められます。
もし、地域を「まち」として定義する場合は、地域に展開する病院や施
設と連携した取り組みにならないと地域の力を活かすことはできません。
しかしながら、現在は地域内の施設同士は連携できていません。
逆に介護職員や看護師の取り合い等も発生しています。
地域全体で「継続的ケア」が確保できる体制が望まれるのです。
◆地域包括ケアシステムとの連携
当然のごとく、この新しい「まち」と今まで整備されてきた地域包括ケ
アシステムがうまく連携することは必須となります。
その点では、日本版CCRCが自治体主導であることのメリットは活かせ
るかもしれませんね。
若い頃からは無理があるかもしれませんが、親の介護が気になり始めた
年代からご自身の老後のことも考えて、(親の住む)地域移住を考えて
みてはどうでしょうか。
そんな時に、故郷に日本版CCRCがあればいいのですが。
全ての業態ではありませんが、テレワークで働ける時代になりました。
今までの働き方を見直すだけでなく、家族の絆を見直すべき時が来てい
るのかもしれません。
今回の記事も最後までお付き合い頂き、感謝申し上げます。