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企業の定年制について考える

2018年12月30日
35

年金受給開始時期はまた繰り下がるのか

 

2018年11月2日の毎日新聞に少し気になる記事が掲載されていま
した。

 

その内容は厚生労働省がまとめた年金受給開始の繰り下げ試算について
です。

 

厚生労働省が2日に行われた社会保障審議会で、現在原則65歳の年金受
給開始時期を70歳迄遅らせた場合の年金水準の試算額を公表したとい
う内容の記事でした。

 

受給時期を70歳迄遅らせた場合、月最大10万円も受給額が増えると
のこと。

 

政府は、現在企業に課してる継続雇用年齢を現行の65歳から70歳に
引き上げたい考えで、この引き上げによって年金の受給開始時期を70
歳以降も選択できるよう検討を進めていることが記事には掲載されてい
ました。

 

ようするに「長く働いて、年金受給を先延ばしたらたくさん年金がもら
えますよ」と言っているのです。

 

国として高齢化による社会保障費の伸びを少しでも抑えたいという思惑
が透けて見えます。

 

この言葉を裏返すと、このままでは「年金制度は無くなることはないに
せよ、これから減額されていく可能性が高いですよ」という言葉に聞こ
えてしまうのは筆者だけでしょうか。

 

 

 

写真素材:フォトサリュ

 

雇用延長が現在の65歳から70歳になることは、働きたいと思ってい
る高年齢者にとっても、人手不足に悩む産業界に於いても喜ばしいこと
かもしれません。

 

多くの高齢者が、心身が弱ってくると予想される70歳まで働けるとい
うことは、ある意味意義があるようにも感じます。

 

しかしながら、ここまで延長するならいっそのこと定年制そのものを見
直してみてはどうかという議論も出てきそうです。

 

今回の記事では、この企業の定年制について皆さんと一緒に考えてみた
いと思います。

 

 

定年制は廃止できるものなのでしょうか

 

 

高齢期に入った方々のセカンドライフの就業先を考える上で、慣れ親し
んだ会社に残るという選択肢があります。

 

しかし、企業における60歳以上の雇用形態は働くものにとってはとて
も納得のいくものではありません。

 

働く能力は60歳を超えても急激に低下するわけでもないのに、60歳
を超えると給与は大幅にダウンします。

 

役職はなくなり、何の権限もなくなります。

 

そして、不安定な非正規という立場に変わるのです。

 

いくらお金のためとはいえ、これでモチベーションを高めて働くことな
どほぼ不可能です。

 

企業の中には高年齢者にとって不満の対象となる「給与・待遇・業務の
変化」を伴う雇用延長という形をとらず、定年制を廃止するところも現
れています。

 

筆者の調査では、中小企業の多くは既に定年制を廃止している企業がた
くさんあることが分かっています。

 

しかし、定年制の廃止が本当に良い結果をもたらすのでしょうか。

 

一見定年制の廃止は、高年齢者に対して必要な施策であるようにも見え
ますが、定年制廃止に移行する為にはどこまで雇用の形態を変えなけれ
ばならないのかを検討する必要性があります。

 

その定年制について注目すべき記事が2017年6月23日の日本経済
新聞に掲載されていました。

 

以下にその新聞掲載記事内容を記しておきます。

 

今後は人口減少が急速に進み、労働力の大幅な減少は不可避である。
労働力減少を少しでも緩やかにするには、出生率を高める努力とともに、高齢者と女性の労働参加率の引き上げと、外国人労働者の増加が必要だ。
~(中略)~
日本は「生涯現役社会」に移行すべきだ。そのためには年金支給年齢の70歳への引き上げと定年制の法的禁止が有効であると考えられる。

 

 

ある意味で衝撃的な記事ではありますが、問題解決に向けて核心をつい
た指摘でもあります。

 

年金支給年齢と定年制廃止をセットで考えているところが優れた考えであ
るとも思います。

 

既に諸外国は先行して政策を打っています。

 

年金支給年齢は、アメリカでは2027年までに67歳に、ドイツでも
2029年までに同じく67歳、イギリスは2046年までに68歳へ
の引き上げを決めています。

 

かなり先まで見据えて先行して対応しているのです。

 

そして、アメリカやイギリスでは、既に定年制は法律によって禁止され
ているのです。

 

しかし、日本の企業においては、定年制は年功序列の賃金体系を維持す
る為に不可欠な仕組みであることは以前の記事でもご紹介しました。

 

いつまで働くかがわかっている為に賃金を上げ続けることができる。

 

逆の言い方をすれば、企業としては一定の年齢で雇用を終了しないと困
る為に定年制を設けているといえます。

 

いわば定年制と年功賃金はセットなのです。

 

従って、日本に於いて定年制が禁止されれば、賃金の年功序列は大きく
修正される可能性があります。

 

効果的な高年齢雇用が実現した時には、賃金体系も大きく変わる可能性
があるということになるのです。

 

 

画像素材:Jim Mayes マッチングの良いセットであればいいのですが

 

 

年功序列崩壊の先にあるもの

 

 

賃金の年功序列が崩れた場合、高年齢者の賃金は企業の評価によって決
まることになります。

 

その時に企業への貢献度を上げていくためには、経験豊富な高年齢者で
あっても、成果を出すために必要なスキルを身に着けておく必要性が高
まることになります。

 

加えて年功序列の崩壊によって、企業内では世代を超えた競争が始まる
ことになるのです。

 

これからの高年齢者雇用の仕組みは、高年齢者にとって、より自分の能
力を高める必要性を強いるものになるのではないかと考えることができ
ます。

 

高年齢者にとっては深刻でハードルの高い取り組みが要求されることに
なりますが、それは半面キャリアアップによって、自身の市場価値を上
げるチャンスと捉えることもできます。

 

日本型の雇用システムは、高度経済成長の時代から下に示した図のよう
にセットで成り立ってきました。

 

このセット運用の強度によって、雇用システム変更の難易度が大きく変
わることになります。

 

 

 

セットで運用されてきた日本型雇用システム
資料出所:清家 篤 「雇用再生 持続可能な働き方を考える」NHKブック( 2013年)の内容をもとに筆者がまとめたもの

 

 

高度経済成長期から続くこの仕組みは実にうまくできています。

 

従業員とのパートナーシップを構築する為、新卒で一括採用し、早く戦
力にする為に社内教育を実施する。

 

そして企業と従業員とのパートナーシップを確固たるものにするための
年功賃金は、生活給という形で本来国が担うべき社会保障を担ってきた
面では特筆すべき特徴を持っています。

 

但し、その反面で同時にこの日本型雇用システムに当てはまらないもの
は弾かれるという性質を合わせて持っていることも確かなのです。

 

かなり変わってきたとはいえ、企業に於ける中途採用は欧米並みに盛ん
であるとはいえません。

 

一旦、この日本型雇用システムの外に出たものは、なかなか元には戻れ
ない仕組みであることも確かなのです。

 

これは、日本における中高年による中途採用の受入れが非常に厳しいこ
とにもつながっています。

 

フェルラブレインPLUS

 

高齢化に合わせた雇用システムの変更

 

 

そんな難しさを持っている日本型雇用システムの中で、高年齢者の雇用
問題を解決する為に定年制だけを変えることは難しいといえます。

 

言い換えると、高年齢者が活躍できる社会や企業とは、今までのものと
は違う環境である可能性が高いということになります。

 

「経験を積んできたことで、知識も見識も豊富で人脈もあり、能力も高
い」

 

というだけでは、企業には貢献できる存在にはなりえないという事態が
生じています。

 

また、今以上に他の世代との競争も激しくなります。

 

ただ、高年齢者がスキルアップやスキルチェンジを通して、企業に対す
る貢献度を高めた場合、企業そのものの経営資源は強化され、企業の競
争力も高めることもできます。

 

日本の雇用システムは、長い間セットで成立し、パッケージとして運用
されてきました。

 

セットの中身を見直す場合、パッケージとしての運用も見直す必要があ
るのです。

 

この定年制の見直しは、中小企業では比較的パッケージとしての運用の
強度が低かったために、現在のところ比較的に容易に推進されてきたと
いえます。

 

しかし、パッケージとしての運用強度が高い大企業に於いては、定年制
を変えることによる影響度は非常に大きいのです。

 

以前の記事でご紹介した定年制を廃止した大和証券は英断を下したとも
いえます。

 

定年制を廃止することは上記に示した図におけるほぼ全ての項目につい
て変更がなされることになりかねません。

 

企業にとってはとても負担になるシステム変更なのです。

 

しかしながら、筆者は中小企業の知見が大企業でも活用できる可能性は
あると感じています。

 

高齢者活用で先行する中小企業のノウハウが、大企業の雇用システム改
革にも役立つ可能性は高いのです。

 

そして、この雇用システムの変革の為には、高年齢者も前向きに貢献で
きるはずです。

 

このシステム変更は、「活力ある高齢社会の実現」が大前提であります。

 

それは企業そのものも社会とともに高齢化するからです。

 

その為にもただのシステムの変更だけで終わらせてはなりません。

 

高年齢者が活き活きと頑張り、企業や社会に貢献できるような変革でな
ければ意味がないと考えています。

 

 

今回の記事も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

 

 

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