近居という考え方(2/2)
住宅地の成熟化
前回の記事では、近居がなぜ必要なのかを考えてみました。
今回の記事も引き続き、近居の必要性について皆さんと共に学んでみたいと思います。
近居が必要になる背景の二つ目に住宅地の成熟化があります。
住宅地そのものが高齢化してしまった場所が多いという実態があるのです。
高度経済成長期にできた団地もその一つですが、ある一定の属性(年代等)の家族ばかりを何百・何千軒規模で集めた住宅地等がその典型です。
開発事業者からみれば、短期間で土地や住宅を売り捌かなければならない
事情がある為にどうしてもその住宅を購入できる方の年代が偏ってしまい
ます。
結果として、その住宅に住む人とともに住宅地そのものも高齢化してしまうのです。
筆者の住んでいる団地も全て戸建てで約2500戸あります。
当然のごとく購入者は筆者より少し上の世代か筆者と似通った年代になっています。
筆者の住んでいる団地も急速に高齢化しており、既に住民がご夫婦ともに
他界され、空き家になっている家も散見されるようになりました。
2階にある筆者の部屋から大きな公園が見えるのですが、つい10年ほど前
まではいつも野球やサッカーで遊ぶ子供たちの元気な声が聞こえていました。
今は子供たちに代わって高齢者の皆さんがゲートボールを楽しんでいます。
街も人と同じで高齢化していくのです。
街の高齢化対策は、違う世代(若い世代)に街に住んでもらうしかないの
です。
それも街がゴーストタウン化する前に。
画像素材:フォトサリュ
近居は地域を活性化できる
地方では人口減少に歯止めがかかりません。
地域の自治体では、あらゆる施策を講じてUターンやIターンで人口を回復
させようと努力しています。
でも無理やり住宅をつくってこのような施策をうたなくても、地域の空き家等既存の設備を使って、親族の近居によって人口を回復できる可能性はあるのではないかと筆者は考えています。
大事なことは親と近居する子供(孫)、逆に子供と近居する親にとって
魅力的なところかという点です。
親と子の関係だけでなく、長く住み続けられる場所である必要があるのです。
仕事や生きがいも大事です。
働き方も一昔前とは大きく変りました。
これからも働き方改革は進み、会社に出なくても働けるところも増えてくるはずです。
最近は転勤そのものを否定する企業まで現れました。
子供を育てやすい環境も大事です。
特に教育は大きなキーワードともいえます。
わざわざ東京の大学に行かなくても、地域で優れた教育を受けることが
できれば地域に愛着を持てる人が増えていくはずです。
近居を実現する為には、住宅だけでなくあらゆる政策が必要なことが分かりますが、その結果で地域が活性化する可能性は大いにあると思います。
福祉について考える
今まで近居が必要になる背景について整理してみました。
最後に少し福祉の考え方についてまとめてみたいと思います。
この国ではかつて血縁家族(親族)が長く福祉を担ってきました。
しかし、その形、姿を経済成長が変えていきました。
高度経済成長期に地方から都会へと出てきた人たちは、血縁関係の薄い都会で地縁社会を頼りに生きてきたといえます。
都会に住む多くの方々が、他人である公(自治体)と勤め先である企業の
福祉に支えられてきました。
筆者も一時期流行した「遠くの親戚より近くの他人」という言葉を今でも
覚えています。
この言葉が示す通り、親族との互助はある時期から急速に衰えてしまった
わけです。
しかし、バブル崩壊以降に福祉の形は、またもその形・姿を変えようとしています。
経済成長の終焉がその主たる要因です。
公としての自治体は疲弊し、企業も右肩上がりに成長できなくなったために福祉から次々に撤退しています。
今まで福祉を担ってきた企業の力が弱まり、公に対しての期待も望めない
状況になったのです。
そんな中で、もう一度注目されているのが血縁による互助です。
近居はその互助の典型ともいえる存在かもしれません。
いや、もしかするとこの国が直面している超高齢化の課題を解決する力を
持っている可能性があるのではないかとさえ筆者は思っています。
読者の皆様、今なぜ近居という言葉が出てきたか少しは分かって頂けたでしょうか。
この近居の考え方、大月先生の著書を読んで頂ければ、もっと理解を深めることができると思います。
是非、下記にご紹介する大月先生のご本を読んでみてください。
また、次回の記事では、大月先生との対談を通して近居のことだけでなく、我々を取り巻く様々な住宅の問題や人と住宅の関係等についてお話しを
お聞きしてみたいと考えています。
どうぞご期待ください。
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
お勧めの書籍
学芸出版社
柏書房 (2019-03-25)