いよいよ65歳以上雇用の時代へ
今まで、読者の皆様と一緒に高齢社会の課題について考えてきました。
本ブログも投稿を始めてから早くも70記事を超えました。
ここまで続けてこられたのも、読者の皆様のお陰です。
ありがとうございます。
今回は少し休憩の意味も込めて、読者の皆様と一緒に少しお勉強を
してみたいと思います。
お勉強の中身は高齢期の雇用についてです。
現行法では、65歳まで希望者全員を雇用する義務が企業側に
課せられています。
これを政府は更に踏み込んで70歳迄働けるように検討を重ね、先般努力
義務化の方向性を決めたことは皆さんもご存知のとおりです。
政府は昨年(2019年)5月、希望する高齢者が70歳まで働けるように
するための高年齢者雇用安定法改正案の骨格をまとめました。
その中身として従来の3つの選択肢
①定年延長/②定年廃止/③再雇用
に加えて、企業の選択肢として全部で7項目を挙げています。
70歳まで定年を延長したり、雇用を延長するだけでなく、新規の施策と
して、
④他企業への再就職支援
⑤フリーランスで働くための資金提供
⑥起業支援
⑦NPO活動等への資金提供
上記4つの取り組みを新たに加えたのです。
正式に法令が改正されれば企業は、従来の①~③の義務化に加えて
④~⑦も努力義務として取り組まなければならなくなります。
施策の中身は、実効性が不透明なものもありますが、今後も法改正に
向けて検討が進められます。
企業側は、努力義務の次のステップである義務化も視野に検討を
強いられることになり、大きな負担になることは明らかです。
下図を見て頂ければすぐにわかるように、現行法でも定年を廃止したり、
定年を引き上げる企業は僅かしかありません。
殆どの企業が再雇用される側にとっては不安定な継続雇用の形態を
選択しています。
次の法改正で、企業はどのような対応をとると皆さんは思いますか。
今回の法改正の動きは、明らかに年金政策(公的年金支給年齢を先伸ばす
ための政策)と連動していますが、もっと理解を深めるために過去の法改正の動きも含めて皆さんと一緒にこれから少し勉強をしてみたいと思います。
日本の高年齢者雇用政策の経緯
政府のよる高齢者雇用政策はこの国の高齢化の進展とともに大きく
変遷してきました。
下図に政府における高年齢者雇用政策の経緯を筆者が独自にまとめて
みました。
中央の青い部分は主な法律の改正内容を、
そして右側の緑の部分は企業の対応を表しています。
年金制度の抜本的改革以降その動きは激しくなっています。
この経緯に合わせて、少し年代を追って説明してみたいと思います。
資料出所:厚生労働省ホームページ 政策について 高年齢者雇用安定法の改正についてのデータを参考に筆者が図表にまとめたもの
1960年代 筆者が生まれる
高年齢者の雇用対策が始まったのは、1960年代からであり、当時の企業の
定年は50~55歳が常識であったようです。
企業を引退した高齢者はまだ核家族化が進んでいない社会の中で、子供と
同居して余生を過ごすのが一般的でした。
ようするに55歳を過ぎると働く必要性がない人が大部分であったといえ
ます。
1960年の日本の平均寿命は男性が65.32歳、女性が70.19歳でした。
2019年7月に厚生労働省が公表した最新の平均寿命は男性が81.25歳、
女性が87.32歳と、現在と1960年を比較すると15歳以上も寿命が
短かったことがわかります。
このことからも当時は企業の定年が55歳であっても不思議では
ありませんね。
日本の男女別平均寿命の推移:厚生労働省ホームページから
しかし、約60年間で飛躍的に寿命が伸び、引退後の生活が長期化していく
中で、核家族化の問題も含めて高齢期の生活保障の課題は社会の中で大きなものとなってきています。
1961年に公的年金制度(国民皆年金)が制定されましたが、当時の高齢化
率は5~6%程度と年金受給者はごく僅かで、この時期の高齢者雇用対策は
引退後の失業対策としての再就職(再雇用)に関する施策が殆どであり、
定年後の事後的対応の性格が強かったといえます。
1970年代 筆者は少年時代
1970年代に入ると、オイルショックを除いては好調な経済成長に後押し
されて、労働市場内部における雇用維持政策が始まります。
1973年には改正雇用対策法で定年延長促進のための施策の充実が明示され
ました。
ここで初めて「定年延長」の取り組みが始まりますが、ここではまだ年金
対策の為の定年延長ではなく、定年延長という予防的対応という本来の
高年齢者対策になっていました。
1971年には高齢者雇用安定法の前身である「中高年者等の雇用の促進に
関する特別措置法(略称 中高法)」が制定されています。
1980年代 筆者はいよいよ社会人に
1986年に前述の中高法が改称され、「高年齢者等の雇用の安定等に関する
法律」が制定され、ここで初めて企業の60歳定年に向けて本格的な検討が
なされることになります。
しかし、1985年に実施された年金制度の抜本的大改革が影響して、すぐに
60歳定年をさらに進めて65歳定年に向けた検討が開始されることになるの
です。
これは老年年金支給開始年齢を当時の60歳から65歳へと段階的に引き上げを行うことが決定されたことによるものです。
ここで高齢者雇用政策は年金政策の為の性格を強めていくことになります。
このように高齢者雇用政策はこの1980年代に急展開することになるのです。
この時の高齢化率は10%を超え、急激な上昇の時期を迎えていました。
この急激な高齢化の進展による影響で、制度の整備が追い付いていかない
現状を見ることができるのです。
1990年代以降
1990年からいよいよ「65歳までの継続雇用確保」の取り組みが開始され
ます。
そして推進検討の過程で1994年には、「60歳定年」の義務化が図られま
した。
60歳定年がほぼ定着した10年後の2004年には65歳までの雇用確保を確実なものとするための措置の義務化(段階的対応)が図られます。
企業は、
①定年の廃止
②定年の引き上げ
③継続雇用制度の導入
のいずれかの措置を講じなければならなくなりました。
段階的対応といいながらも、②③についても2013年4月1日までに雇用確保
義務年齢を65歳以上に引き上げる必要があるとしたために、この時点で65歳までの雇用確保の目途が付いたかに見えたのです。
継続雇用の制度改訂
さらに2012年の高年齢者雇用安定法の改正により、定年に達した人を
引き続き雇用する「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる
仕組みが廃止されるなど、原則65歳までの高年齢者の雇用確保措置の
義務化が図られることになります。
それまでは企業側の意向で雇用延長者が選別できる差別的な対応が横行
していました。
この規制により、高年齢者の豊富な知識、経験、技能の活用の場が拡大し、高年齢者の雇用確保につながることが期待される反面、人件費の増大や
人事制度の改革、若年者との待遇バランスなど、多くの課題解決に企業が
取り組む必要性も生じてきています。
このように高年齢者雇用安定法は年金制度の受給時期の変更に合わせる
ように改定を続けてきた経緯があります。
この改定では「経過措置」がとられることにより、企業の負担をできるだけ軽減する為に段階的に高年齢者の雇用を確保しようとする厚生労働省の
思惑が透けて見えます。
65歳以上雇用に向けた法改正
筆者がこのブログを始めた頃、とうとう高齢者雇用は65歳を超えた論議に
入るとの情報が舞い込んできました。
2018年10月5日の日本経済新聞の1面に「65歳以上雇用へ法改正」という
言葉が躍りました。
2018年10月2日に発足した第4次安倍内閣は、「未来投資会議」なる取り
組みの中で、2019年夏までに今後3か年の工程表を含む実行計画をまとめ
ると言っていたのです。
その中で、現状の雇用延長の課題の一つである「定年後に大きく給与が
減額される」ことに対しても踏み込んだ対応をすることが明示されて
いました。
年齢に関係なく個人の能力差等に応じて適切な報酬体系が構築される仕組みを構築したい考えであることが記されていたのです。
どこまで企業に対して拘束力を発揮できるは定かではありませんが、雇用
延長者の不満を反映したものであることは明らかでした。
けれども結局は、この記事の冒頭で書いたような自社内である条件の元、
雇用を守るという施策よりは、高齢期を迎える社員に多様性のある選択肢を提供するという内容にすり替わっています。
(残念ですが・・・)
今回の法改正の背景には、明らかに年金支給開始年齢の引き上げ(70歳までの引き上げ)があります。
上記でまとめてきたとおり、政府側の年金政策上の対応と企業側の対応には明らかに温度差があります。
記事の途中で申し上げたとおり、急激な高齢化に制度が追い付いていないという現実があります。
だからこそ、今後の対策は付け焼刃な対応ではなく、もっと先をみた対応が望まれると思うのです。
政府と産業界は人手不足で外国人雇用の拡大を進めていますが、
そんな中で筆者は、高齢者雇用制度をもう一度真剣に考え直す必要性が
あると感じています。
年金政策と雇用の両面から元気で働く意欲を持った高齢者がモチベーションを高めて働き続ける制度にしていかなければなりません。
そのためには、読者の皆さんの意見も大事なのではないかと
感じています。
政府が考えて決めたから、
企業がこう対応するから、
ではなくて、セルフマネジメントで、自分で自分の働き方を決めていける
ような準備をすべきなのではないかと感じています。
人生100年を生き抜くためには、元気なうちは働き続けないといけなくなりました。
でも、その働き方は人生100年を幸せに生きていくための働き方でなければならないと筆者は思っています。
少し歯切れが悪いのですが、これで今回のお勉強は一旦終了させて頂き
ます。
皆さんのご意見お待ちしております。
今回も最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。