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定年後再雇用を考える

2020年03月12日
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前回の記事では、働き方改革について触れてみました。

 

新型コロナウイルス等の新たなリスクに対応する為には、どうしても働
き方を変えていく必要性があります。

 

その考え方は、定年後の働き方にもつながるかもしれません。

 

今回の記事では、定年後を中心に働くことをどう捉えるのか、皆さんと
一緒に考えてみたいと思います。

 

定年後の働き方には、いくつかの選択肢があります。

 

その中で、年金支給年齢が調整されていく関係で、会社に残ることを選
択する人が多いことは皆さんもご存知のとおりです。

 

でも筆者の会社では、雇用延長しても65歳迄会社に残る人は少なく、た
いていの場合は1年から2年で辞めてしまうケースが多いのです。

 

その理由は様々でしょうが、経済的に生活の心配もありながら、やはり
遣り甲斐を感じられないことがその要因の中心にあるようです。

 

 

青空のようにスカッとする仕事ならいつまででも続けられるのですが…

 

 

再雇用の不満

 

 

この遣り甲斐のなさにも様々な要因が考えられます。

 

一つ目は、給与ががっくりと下がってしまうこと。

 

この働き手不足の時代にあっても、定年前と比較して50%以上のダウ
ンは依然として珍しいことではないそうです。

 

ある調査機関のアンケート調査では、大幅ダウンは調査対象の80%を
超えているそうです。

 

適切な表現かどうかは別にして「想定外」と表現している場合もあるよ
うですので、ショックを受けている方も少なくないのだと感じました。

 

この給与の大幅ダウンだけをみると、会社の本心が丸見えになってしま
います。

 

「年金制度対応の為に仕方なく雇用延長してあげているんだよ」

 

特に大企業の中には、再雇用を福祉の一面でしか考えていない対応にな
っているところが少なくありません。

 

働く時間や内容に変化もないし、働く能力も変わらない。

 

でも、給与だけはがっくりダウンする。

 

殆どの方が会社の制度に対して諦めの気持ちで再雇用に応じています。

 

働く方も、

 

「納得できないけど、仕方なく働くしかないか」

 

こんな状況の中で雇用延長者の気持ちを表した言葉が印象的です。

 

「(給与がガクっと下がるから)まあ、俺はそんなに働かないぞ、
みたいな感じ・・・」※

 

「(処遇が下がることに対して)そんなもんだろうと思っていたから、
別に・・・」※

 

この反応をどう見るかは別にしても、会社にとっても働く人にとっても
プラスにはなりそうにありません。

 

ようやく、最近になって企業の中には、能力に応じて給与を見直す動き
も出始めました。

 

二つ目は、不安定な雇用形態です。

 

大部分が、エルダー社員という名の非正規社員の仲間入りをすることに
なります。

嘱託等の不安定な立場に加えて1年更新という形をとっています。

 

長年会社に勤めたものにとっては、

 

現役正社員の座

 

を奪われたことを実感することになるのです。※

 

そして三つめは働く中身です。

 

大部分の方は、慣れ親しんだ職務を離れ、別組織へと異動して働いてい
ます。

 

調査結果からの雇用延長者の素直な気持ちを言葉にすると、

 

・多くを(会社側から)望まれない※

・大事な仕事は任されない※

 

と感じているようです。

 

この状態が続くと、社員側にも遠慮みたいなものが生まれます。

 

・あまり出しゃばり過ぎない方いいかな・・・

・こう思うけど発言するのは、やめとこう・・・

 

とても残念なことです。

 

年齢差別のない欧米の企業と比較しても、社内でモノ凄い機会損失を生
んでいるのではないかと感じてしまいます。

 

そして、ここでも、「現役正社員の座」を奪われることになるのです。

 

 

画像素材:Jim Mayes  青空とは対照的に澱んだ気分になります

 

 

この3つの変化だけで、結局はモチベーションが大幅に下がることにな
ります。

 

せっかく会社に残る決心した人を活かせるのか?

それとも福祉の為に面倒をみるのか?

 

筆者は、雇用延長者が現役社員に劣る存在だとは思えません。

高齢期に達した雇用延長者は確かに健康面や体力面では課題があるケー
スもありますが、意欲さえあれば現役世代以上に働く能力と知識を持っ
ています。

 

働き手がこれからも不足していく中で、会社の制度や仕組みを熟知して
いる雇用延長者を活かすことはとても大事ではないかと感じます。

 

それも会社にとって、経費は少なくて済むのです。

 

そのためには、雇用延長者のモチベーションをどう上げていくのかが課
題となります。

 

このモチベーションアップ、会社だけが考えるものではありません。

 

雇用延長者自らも考えないといけないことなのです。

 

そのためにとても有効な学問があります。

 

雇用延長者(でない人も含めて)がモチベーションを上げて、仕事に取
り組めるノウハウをこれから少しご紹介してみたいと思います。

 

会社側は経営上の課題もあり、条件面を見直すことは簡単ではありませ
ん。

 

そんな中で、雇用延長者が自らモチベーションを上げていく方策がある
のです。

 

 

ジョブクラフティング

 

 

筆者には、最近とても興味を持っている学問があります。

 

働き方改革という言葉が頻繁に使われるようになりましたが、猛烈に働
くのをやめるとかではなく、仕事に関する認識を変えていきましょうと
いう学問です。

 

その学問の名前は、ジョブ・クラフティング。

 

ジョブ・クラフティングとは、仕事への取り組み方を見直したり、自分
の強みを発見したりすることで、仕事の中に主体的にやりがいを見出し
ていこうという考え方です。

 

クラフト(craft)は、英語で「工芸」の意味ですよね。

 

 

 

 

つまり、一見退屈な普段の業務・人間関係にひと工夫加えて、面白いも
のに変えていこうというのが、ジョブクラフティングの基本的なコンセ
プトです。

 

日頃、会社の中で、“やらされ感”を持ちながら仕事をしている人は少な
くないと思います。

 

そのままでは、仕事にやりがいを感じられませんし、当然のごとく生産
性も向上しません。

仕事にストレスを感じながら働いている人も多いのが実態です。

 

こうした問題を解決するための一手法として、最近「ジョブクラフティ
ング」が注目されているのです。

社員が、組織から与えられた役割をこなすだけでなく、持っている能力
を活かして、自ら仕事をつくり変えていくことは、活き活きと仕事をす
ることにつながると考えられています。

 

定年を迎えて再雇用に応じた高齢期の方々は、様々な環境変化に直面し
ます。

 

この環境変化に対応する為にも必要な考え方であると感じています。

 

日本国内での研究者はまだ少ない中で、先駆者として名高い武蔵大学の
森永先生のお話をお聞きする機会がありましたので、その時の内容をご
紹介する形でこの考え方について少し説明してみたいと思います。

 

森永先生がジョブクラフティングを説明するときにいつも使っているの
が、東京ディズニーランド(TDL)の話です。

 

東京ディズニーランドのカストーディアルキャストは清掃や案内、写真
撮影も担当する人ですが、普通に考えると掃除係。

 

本当はつまらない仕事のはずです。

 

ところが、結構人気のある仕事らしいのです。

 

カストーディアルキャストの皆さんは、パーク内外の清掃を担当する
従業員でありながら、写真撮影や道案内はもちろん、箒でミッキーの
絵を描いてゲストを喜ばせるなど、様々な仕事を主体的かつ柔軟に取
り入れることで、よりやりがいのある仕事に変えています。

 

そう、ただの掃除係でありながら、顧客を喜ばせることが仕事であると
自ら自分に意識させ、そして自分の行動を変えている。

 

このことこそが、定年後に再雇用に応じる方にとって必要な考え方だと
思うのです。

 

定年後、どのように仕事に対する意識を変えていくのか?

 

そのヒントをジョブクラフティングの理論の中に見出せるのではないか?

と、考えました。

 

ジョブクラフティングの考え方は、当初3次元だったようです。

 

・仕事そのものを変える

・関わる(人間)関係を変える

・仕事の認識を変える これがTDLのキャストが導入している考え方で

 

それが最近は4次元モデルやそれ以上になっているらしいのです。

 

ちなみに4次元モデルの中身は、

 

・構造的仕事の資源の向上

・妨害的な仕事の要求度の低減

最近企業が取り組んでいる無駄な会議や週報を無くすことが、これに当
てはまります

・対人関係における仕事の資源の向上

・挑戦的な仕事の要求度の向上

 

ジョブクラフティングの要素を要約すると、

 

「タスク」「人間関係」「認知(役割)」

 

の3つの要素に分かれます。

 

最初に認知面のクラフティングをする。

 

つまり、役割を見直すことによって、タスクと人間関係のクラフティン
が行いやすくなるそうです。

 

東京ディズニーランドのカストーディアルキャストの場合、自分の役割
を単なる掃除係ではなく、

 

「ゲストをもてなすキャストの一員」

 

と、捉え直すことによって、箒でミッキーマウスの絵を描くなどのタス
クや、ゲストに声をかけるといった人間関係を新たに生み出すことにつ
ながっています。

 

 

 

定年後、雇用延長に応じた社員が自分の仕事をどう捉え直すのか?

そしてどのように認知していくのか。

 

まず仕事の認識を変えていく。

そこから(再雇用での)自分の役割を再設定していく

再設定された役割から自分のタスク(行動)を決めていく

 

不満だらけで、諦めの境地で働き続けるよりも、自分の可能性を探しな
がら仕事を続けていく。

 

簡単なことではないにしろ、次のステップにも役立つ可能性があります。

 

認識を変えろというだけでは難しいところもありますが、自分の力で、
そして自分の判断で仕事の捉え方を考えることは、違った自分の価値観を
見つけるチャンスになるかもしれません。

もしかすると、最初は嫌だと思っていた新しい仕事の中に、新たな発見を
見いだせるかもしれません。

 

少なくともいやいや我慢して仕事をするよりかは、自分にとってプラス
になります。

 

それができるかどうかで、雇用延長の数年間の充実度がかわってくるか
もしれません。

 

このジョブクラフティングの理論は、これからの学問で研究が始まった
ばかりです。

 

でも、筆者は高齢期の働き方改革にとても有効な学問であると考えてい
ます。

 

このジョブクラフティングについては、もう少し詳しくご紹介できる機
会を作ってみたいと思っています。

 

(注記)

上記記事の中の※マークの部分につきましては、下記セミナーでの発表
内容の一部を活用させて頂きました。

 

 

日本労務学会 関東部会(2月16日実施)での発表内容

 

「高齢雇用者の縮小的ジョブ・クラフティング」

法政大学大学院 政策創造研究科 博士後期課程 岸田 泰則氏

 

 

 

今回の記事も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。