高齢者施設の未来を考える
最近の記事ではずっと2025年問題について考えてきました。
大きな人口の塊である団塊の世代が後期高齢者の領域に入るであろう
2025年には様々な問題が社会の中で顕著になることが予測されています。
筆者は、その影響が一番顕著に現れる場所は高齢者施設ではないかと考
えています。
今、都市部を中心に高齢者施設が増えています。
最近、駅の広告宣伝の多くを占めているのは、「特別養護老人ホーム」
や「有料老人ホーム」の宣伝広告です。
設備の新設だけでなく、既存の設備を高齢者施設に変更してサービスを
開始するところも少なくありません。
そんな高齢者施設にも2025年問題の大波が迫っているのです。
大きな環境変化
2025年以降、高齢者施設にどんな問題が襲いかかるのでしょうか。
入居希望者が殺到して、職員がてんてこ舞い?
問題はそんなところばかりにはありません。
社会福祉法人や自治体が運営する「特別養護老人ホーム」と民間企業が
運営する「有料老人ホーム」を比較するのは、入居対象者や提供するサ
ービス内容が違う為に難しいところもあるのですが、両者に共通すると
ころは介護保険の介護報酬を収入の柱にしているところです。
この介護報酬、今まで度々課題として取り上げられてきました。
世の中で3K職場が減っていく中で、唯一3Kの代表格として君臨する
介護職現場。
そこで働く職員の離職率は他業種よりも高く、その要因の上位にはいつ
も低賃金であることが挙げられています。
社会に役立つ尊い仕事であり、仕事内容は3K、なのになぜか低賃金。
画像素材:PIXTA
筆者が見てきた施設はこんなのんびりしたところありませんでした
どこも職員にとっては「戦場」に近い大変なところが多かったのです
この低賃金が問題となり、度々見直しがなされてきました。
現在はコロナの影響で負担が大きい介護職の為に僅かながら介護報酬は
上がりました。
(介護職員の給料を見直すにはまったく不十分な内容ですが・・)
今、この低賃金すら危機に瀕しています。
2025年以降、社会保障費の急激な上昇が予想されています。
そんな中で、国は介護報酬を下げなければ対応できなくなることは、
火を見るよりも明らかなことです。
そう、2025年以降介護職員の給料は上がらないばかりか、下がっていく
可能性が高いのです。
介護の現場で歯を食いしばって頑張っている方々には信じられないこと
ですが。
2025年問題だけでも深刻な事態ですが、コロナの影響で国は深刻な財源
不足に陥ろうとしています。
雇用保険や医療を含めた社会保険も保険料率の見直し(上昇)は必至の
状態です。
こんな状態で、介護報酬だけは据え置きなんてことは絶対ない事が誰に
でも容易に理解できる状態になりつつあるのです。
そして、施設には単純に入居希望者が爆発的に増えていくだけではあり
ません。
心身が弱った入居者が増えていくのです。
2018年に内閣官房・内閣府・財務省・厚労省が見通した数値です
3年経った今、その伸び率はもっと上がっているかもしれません
財源はコロナの影響もあり、2018年度よりはるかに厳しくなっています
これから年金は、医療や介護報酬はどうなると思いますか?
改革ができる施設のみが生き残る
こんな難題山積みの施設に希望の光はないのでしょうか。
介護報酬は減っていく
介護職員(看護職員も含めて)の確保は依然として難しい状態にありま
す。
一部では地域内で人材の奪い合いも発生していますが、そんなことをし
ても地域の介護力はまったく上がりません。
国が進める地域包括ケアシステムを考えた時、本末転倒と言わざるを得
ません。
こんな課題を解決する為にも、施設そのものの大改革が必要です。
高齢者施設は、他業界と比較しても殆ど改革が進んでいません。
やっていることは旧態依然のままなのです。
最近、政府が流行り病に罹ったように繰り返す言葉「ICT」。
高齢者施設ではICTの導入も管理システム以外は殆ど進んでいないという
のが実態です。
厚生労働省も科学的介護を目指して、「CHASE」や「VISIT」といった
システム構築を通じてデータベースづくりを進めようとしています。
しかしながら、それ以外にも本来進めるべきシステム構築はたくさんあ
ります。
ICTを進めるためには、介護現場にICTを導入する為の支援体制も必要だ
と考えていますが、介護現場には圧倒的に様々な人材が不足している為
に何も進まないのが現状です。
まずは、施設内に改革を進める体制が必要です。
そして、それを進めていけるリーダーも必要なのです。
目の前の課題を見ると、施設管理(経験)者や介護職・看護職ばかりに
目がいきますが、本当に必要な人材は改革リーダーなのです。
画像素材:PIXTA
高齢者にとっての「生き甲斐」と職員にとっての「やり甲斐」が大事
両者にとって、笑顔が絶えない施設が一番良い施設のはずです
元気な高齢者を創る秘策とは
こんな状態ですが、高齢者施設改革にも有効な秘策があります。
その秘策とは入居者を元気にするだけでなく、職員のやり甲斐にもつな
がるものです。
介護度が重い(介護度3~5)方が入居する「特別養護老人ホーム」は
別にしてその他の施設では、介護度を下げる取り組みが必要なのです。
施設では、身体機能の維持や認知症の進行防止を目的に体操等の運動を
含めたレクレーションや脳トレーニング等を実施していますが、どれも
介護度を下げる目的で行っているものではありません。
どこも現状維持が精一杯だと信じ込んでいるのです。
この介護度を下げる取り組み、まずは意識改革が必要です。
施設が「心身が弱った高齢者を預かるところ」という既成概念をまず変
える必要性があるのです。
・なぜ心身は衰えるのでしょうか?
・なぜ認知症は進行するのでしょうか?
加齢や遺伝の影響、体質等の影響もあることながら、一番影響が大きい
のは「不活性」です。
以前の記事でもご紹介したとおり、心身の衰えは心身の不活性、脳の不
活性による影響が大きいのです。
まず、残されている身体能力に合わせた不活性を防止する活動をするこ
とが大事なのです。
筆者が一番良いと思っているのは、運動ではありません。
それは働くことです。
施設では「機能訓練」と称して、お皿洗いや洗濯ものを畳むといった活
動を入居者の皆さんにお願いをすることがあるのですが、今までそれを
嫌がった方を筆者は一人も見たことがありません。
皆さん、喜んで働いてくれるのです。
中には志願される方も少なくありません。
ブログのいろいろな記事で高齢期で健康を維持する最良策は働くことだ
と度々書いてきました。
施設に入居している高齢者にも働く機会があれば、健康を維持するだけ
でなく、生き甲斐を見つけることにもつながります。
以前の記事でもご紹介した「きょういく(今日いくところ)」と「きょ
うよう(今日する用事)」を仕事を通じて入居者の皆さんが得ることが
できるのです。
そう、「きょういく」と「きょうよう」を通じて、体と頭を使う。
これに運動やレクレーション等の活動やICTを活用した健康管理をつけ
加えることができれば、入居者の皆さんはどのように変わるのでしょう
か。
いくつになっても、生き甲斐や遣り甲斐を感じて生きることはとても大
事だと思います。
まったく別の視点で考えると、
・施設内の高齢者の皆さんが元気になれば、職員の負担はどうなるでし
ょうか。
・(これが大きな動きになれば)社会保障費はどうなるでしょうか。
後は介護度を下げた場合に介護報酬にポイントが付けば、更なる効果が
見込めます。
高齢者施設の未来を考えた時、職員だけでなく、入居している高齢者の
やり甲斐や生き甲斐を追求することが、とても大事なことだと思います。
一番有効となる策は入居者である高齢者の皆さんに元気になってもらう
ことなのです。
高級高齢者マンションに入居されているアクティブシニアとまではいか
なくとも、施設内で、元気で、笑顔で、働いている高齢者を増やすこと
が出来る施設であれば、入居者も職員もHAPPYになれるかもしれません。
これからも更に高齢化が深化していくこの国で、高齢者施設の新しい形
を考えることはとても有意義なことだと感じました。
今回の記事も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。