ベットタウン
筆者が住んでいるところは、兵庫県の南東部です。
大阪と神戸という大都市のベットタウンとして栄え、一時期は10年連
続人口増加率日本一にも輝きました。
新しく開拓されたニュータウンからは、ドアツードアで大阪にも神戸に
も1時間以内で行ける便利さから急激に住民が増えたのです。
大阪へはJR、神戸へは私鉄でと2ルートの鉄道が市内を走っており、2
都市への通勤だけでなく買い物にも便利なことからかつては嫌われた裏
六甲(六甲山系の裏側という意味)の街は急発展しました。
地図で見るとよくわかるのですが、市の面積は大都市大阪市を上回りま
す。
市内にJR5駅、私鉄6駅を要する為に、ニュータウンも分散しており、
市の南西部に巨大なニュータウンが5つもあります。
ニュータウン全体を総称して「北摂ニュータウン」と名前がついており、
大阪府内にある巨大ニュータウンの「千里ニュータウン」や「泉北ニュ
ータウン」と並ぶ大きな街なのですが、今この巨大なニュータウンに異
変が起きています。
街を南北に貫く幹線で分けられた東西の街を結ぶシンボル的な橋と市の
施設(役所機能や図書館・イベントホール)
違う意味でのベットタウン
ベットタウンとは寝に帰る街という意味ですが、筆者もサラリーマン時
代はまさにそんな感じでした。
でも、最近は大都市周辺の街を指して、別の意味でベットタウンという
言葉が使われ始めているのです。
経済発展と共に大都市周辺にニュータウンが整備され始めたのは196
0年代前半です。
最初は大都市東京や大阪の周辺に整備が始められました。
筆者が東京時代に活動していた多摩ニュータウン等がその代表例かもし
れません。
開発・整備から半世紀を過ぎ、開発当初ニュータウンを構成した中心的
な建物である団地はその機能を終えようとしています。
その団地にあこがれを抱いて入居した人々の多くは70から80代を超
えようとしています。
そう今、ニュータウンの高齢化が大きな問題になっているのです。
そして、ニュータウンの意味合いは、「寝る為に帰る街」から「ベット
に寝たきりの老人の街」に切り替わろうとしています。
市街地を流れる川の両側には桜回廊があり、市民の憩いの場です
ニュータウンの高齢化問題
筆者の住む北摂ニュータウンも元々盆地の底辺にあった旧市街地とは別
に丘陵地を削り、道路をつくり、新しく鉄道を走らせて創った新しい街
です。
公的機関(地方公共団体や住宅都市整備公団等)が主導したものや民間
企業が主導したものが混在していますが、広い土地面積を売りにした主
に庭付き一戸建てが中心の街なのです。
結果、その庭付き一戸建てが買える購入層の年代に偏ってしまった結果、
多くの街で一気に高齢化が進んでいます。
開発途中から若者も住めるような集合住宅も併設されていきましたが、
街の大部分の住民は高齢化してしまったのです。
筆者の住む街のように、一度巣立った子供たちが戻ってきて「ソーシャ
ルミックス」を実現している街もありますが、高齢化を象徴するような
事例も多いのが実情なのです。
北摂ニュータウンは、南北に大きな街を繋ぐように広い幹線道路が走り、
その中央に鉄道が走るという構造になっています。
幹線のはるか向こうには六甲山が見えます。その向こうは大都市神戸。
ただ、街自体は戦国時代からある古い街で、旧街道の宿場町でもありま
す。
古い道路が街を縫うように走っていますが、そんな旧道を車で走ってい
ると必ず見える光景があります。
それは大規模介護施設です。
市内にある大規模施設は、その殆どが医療法人がその運営をしており、
病院が併設されています。
要するに介護度が高いか、重い基礎疾患を持っている高齢者を対象にし
ています。
こんな大規模施設だけでなく、最近高齢者施設がドンドン新設されてい
ることをみてもこの街が抱えている課題を垣間見ることが出来ます。
筆者がこの街に引っ越してきたのは30年ほど前、筆者もまだ30代前
半でした。
当時、ショッピングモールで買い物をしている方々は、40代が中心で
した。
今、買い物に行くと60から70%は、リタイヤした高齢者です。
杖に頼ったり、買い物用の車を支えにしている人も少なくありません。
筆者同様、30年前とは大きく様相は変わってしまいました。
夢のような庭付き一戸建てに住み胸を張って生活していた方々は、老い
てしまいました。
今、日本にある殆どのニュータウンが高齢化に苦しみ始めています。
日本全体の高齢化はもうすぐ30%ですが、ニュータウンの高齢化はそ
れよりはるかに高いのが実態なのです。
そして老朽化と財政難
人口増加率日本一を更新している時の市の財政は潤っており、街の中に
は次々と新しい箱ものが建っていきました。
街の中心を流れる川沿いには大規模施設が立ち並びます。
写真は文化ホール。この川沿いには数Kmに渡って桜並木が続きます。
でも、その勢いはいつしか衰え、代わりに衰退の象徴的な光景が増え始
めました。
ショッピングモールの中に空き店舗が目立つようになってきたのです。
地方の駅前で目立つシャッター商店街と同じです。
人口増加は止まり、高齢化と共に若い世代や子供の数が激減していった
のです。
大阪や神戸に勤める働き盛りの世代を大量に吸収し、関西の経済発展を
支えるという目的を持った街が、
同世代の一斉入居による一斉高齢化、
首都圏を中心にした大学進学に伴う子供の一斉流出、
人口減少と高齢化による税収減少
に悩み始め、発展という文字から置き去りにされつつある現状に不安を
募らせています。
当然ながら、インフラを中心にニュータウンの老朽化も激しくなってき
ています。
本来は必要なバリアフリー化等の高齢化対策も進んでいません。
小学校を中心に学校等も統廃合の噂ばかりです。
とうとう地域の医療の中心である市民病院もお隣の神戸市某区にある中
核医療拠点と統合話しまで進む有様です。
こんな街が、新たな住民を惹きつけるのは困難というしかありません。
この市民病院の話に戻ると、統合が予定される新しい医療拠点は市街地
から遠く離れた場所になり、電車では行くことが出来ないそうです。
免許を返納した高齢者がどのようにそんなところに行くのでしょうか?
こんな様々な問題の上に、いよいよ深刻となった介護の問題が乗っかっ
てきます。
高齢化の速度が著しく速いニュータウンでは、買い物難民が多数生まれ
ることはもちろん、介護の人手不足もまた懸念されている状態です。
筆者が記事で度々懸念してきた2025年問題が、都市部周辺のニュー
タウンに、他の地域よりも早く訪れる可能性が高いのです。
そしてその深刻度は、日本全国の2025年問題よりも大きくなる可能
性があります。
ニュータウンの持つ構造的な問題は深刻です
高齢化を防ぐことが出来ないなら、高齢期でも健康を保ち支える側の
高齢者を創るしかないのですが、そんな取り組みができている自治体は
殆どありません
地域力の低下
筆者はサラリーマン時代東京勤務が多く、この街に引っ越してきてから
もう30年にもなりながら殆どここでは生活をしていません。
定年退職をして一旦東京から戻りましたが、すぐに北海道に行ってしま
ったので殆ど街にはいなかったのです。
筆者の住む街も見るからに高齢化が進みました。
そんな中で先日愕然とすることが起きました。
回覧板がポストに入っていたので、ご近所に持っていったところ、
「うちは自治会から脱会したのよ」
と回覧板は不要であると告げられたのです。
1ブロック14~18軒の家があるのですが、筆者の家があるブロック
も既に数軒が空き家になっていることに加えて自治会も脱会…
そんな時に、今年は我が家が自治会担当になるとの通知が飛び込んでき
て、自治会に行ってみるとなんと役割はくじ引きで決まるとのこと。
なんでくじ引き?と首を傾げると、役員の辞退ができないようになって
いると聞き、思わず後ずさりしてしまいました。
くじで会長を引けば自動的に会長を受けざるを得ない状況なのです。
自治会から(施設への入居も含めて)脱会していく人が増えていく中で
致し方ないとはいえ、とてもお寒い状況なのです。
ニュータウンにおける自治会には旧市街地と比べても長い歴史がありま
せん。
当然のごとく、古くからのご近所付き合いもなく、孤独になりやすい環
境が自然とできてしまっているのです。
何か地域で活動でもしていない限り、地元に愛情がある人も少なく、高
齢化が進む中で孤立していく人が増える要素を多分に含む危険地帯とも
いえるのです。
以前の記事でもご紹介した街の近くの農園の中にある枝垂れ桜庭園
農園のお父さんが地域を応援する為に頑張っています
都市部の働き手を受け止める為にできたニュータウンは、いよいよとい
うか、とうとうというか、その社会的な役割を終えようとしているのか
もしれません。
この国の都市部近郊に筍のように多数生まれたニュータウンは、このま
までは寝たきりの老人を抱えるベットタウンを通り越して、ゴーストタ
ウンになってしまうかもしれません。
でも、このニュータウンの課題を解決することが出来れば、逆にこの国
の高齢社会に対応できるともいえるのです。
自分の住んでいるところは、今後どうなっていくのか?
このままでは、自分達の子の世代に何を残してしまうのか?
まずできることは、課題の先送りばかりで本質を変えることができない
政治家を選ばない事です。
結局は、変えていけるのは私達ではないのかと感じます。
そういう意味では、国も自治体も高齢化対応の為の人材をもっと育てて
いくべきなのかもしれません。
それも子供の頃から育成が必要になるのではないでしょうか。
今回の記事は、筆者も住んでいる都市近郊のニュータウンの課題につい
て考えてみました。
今回の記事も最後までお付き合い頂き、感謝申し上げます。