ポジティヴヘルス
以前の記事で健康格差を生んでいる要因は、個人の生活習慣病予防への
努力の有無だけではなく、実は環境にあるという興味深い内容をご紹介
しました。
個人の努力だけでなく、環境整備も大事なのだと…
ただ、高齢になると誰もが何らかの疾患を持つ事が多く、
「健康=病気ではない状態」
と、すること自体に無理があるような気もするのです。
WHOの定義で、
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的
にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にある
こと
とあるのは、読者の皆さんもご存知のはずです。
ということは、病気や障害を持っているからといって、不健康なわけで
はないとも言えるわけです。
それでは、どんな状態なら健康と言えるのか?
個人の主観も入るので難しい問題です。
そんな中で、健康は「状態でなく能力だ」とする考え方があります。
その考え方の名は、ポジティヴヘルス。
以前の記事でも度々登場している福祉先進国オランダで生まれた概念で
す。
今回の記事は、この新しい健康の概念について取り上げてみたいと思い
ます。
画像素材:PIXTA 高齢になっても見るからに健康そうな方々は多い
のですが、その反面でそうではない人もたくさんいるのです
健康に対する新しい概念
この概念を発案したオランダの研究者(元は家庭医であるDr. Huber氏)
の言葉を借りると、
健康とは「社会的、身体的、感情的な問題に直面した時に適応し、本人
主導で管理する能力としての健康」
なのだそうです。
ようするに、Dr. Huber氏は、健康を「(様々な状況に)適応してセル
フマネジメントをする力」としてみてはどうかを提案しているわけです。
健康を「能力」として捉えるとはどういうことなのでしょうか?
もう少しDr. Huber氏の言葉を見ていくと、なるほどそう言うことかと
納得させられます。
Dr. Huber氏曰く、
「疾患や障害があっても、周りの力等を支えにして、気落ちすることな
く、人生を前向きに歩いて行けること、その力こそが健康(なのだ)」
という風に、健康を「状態」ではなく、「能力」として捉えているわけ
です。
Dr. Huber氏が提唱するポジティヴヘルスは、次の6 次元で構成されるようです。
「身体の状態」
「心の状態」
「生き甲斐」
「暮らしの質」
「社会とのつながり」
「日常の機能」
という6つの構成要素で表されています。
Dr.Huber氏が提唱する6つのポジティヴヘルスの構成要素はバラバラで
は意味がない 要素をリンクさせてこそ効果が発揮される
筆者はポジティヴヘルスの図を自分でまとめながら、ふと思ったのです。
Dr. Huber氏は、医師として働く中で、身体の状態(病気)を治すだけで
は健康にはなれないことが理解できたのではないかと。
日本は世界的に医学(医療)が進んだ国であることは筆者も頷ける事実
です。
心臓疾患で度々手術を受けているので、いつも関心もさせられます。
でも、その反面で、臓器別の縦割り医療の問題点も痛感させられたこと
があります。
そしてお医者さんは症状を治すことに精一杯で患者の悩みまでは診てく
れないこともわかるのです。
例えば、睡眠障害で病院に行くと、睡眠誘発剤をもらいます。
でも本当の原因は、経済的な困窮からの鬱だとしたら、永久に病気は治
りません。
本当は病気の要因を治さなければならないのに、日本の病院は病気別
(臓器別)の縦割り制度になっていて、症状の治療や緩和が主となって
いて、上記のポジティヴヘルスの構成要素に一つである患者の心は診ま
せん。
病気そのものしか見れないのは無理もない事かもしれません。
(長時間労働でそんな暇もないのかも…)
ここにこの国の医療の大きな課題があるのかもしれません。
筆者は地域活動でよく高齢者の皆さんから相談されるのです。
・心配事があるのでお医者さんに行って相談するのだけれど、「もう歳
だから仕方がない」と言われて困っている
・たくさん薬をもらうのだけれど、こんなに飲んで本当に大丈夫なのか?
確かに80代や90代の方が多いので、対処も難しいのかもしれません。
でも、同じ病気でも想いや感じ方は人によって違うのです。
今まで歩んできた人生によっては病気の捉え方なんかも違う。
父母の病歴なんかを気にされている方も多いのです。
だからこそ、患者そのものをまず診ることからやらないと健康にはなれ
ないのではないかと感じてしまいます。
画像素材:PIXTA 上記のポジティヴヘルスの6つ構成要素をリンクさせ
ることが出来る存在(人・組織)が必要なのだと感じます
こんな状態の中で出会ったDr. Huber氏の「ポジティヴヘルス」という
考え方は、構成要素の中に「生き甲斐」なんていう日本風の構成要素が
あって、この日本にも馴染む考え方かもしれないなと思いました。
逆に考えると、疾患や障害を持っていても健康になれるかもしれないの
です。
この日本の国では、これからも高齢化が進み、以前の記事でもご紹介し
たように後期高齢者が増え続け、高齢化が更に深化していきます。
身体の治療が極めて難しくなっていくのです。
だからこそ、今回ご紹介したポジティヴヘルスのような考え方を医療や
福祉の世界に導入すべきではないかと感じました。
地域包括センターに行けば、介護認定を受けて施設や在宅で介護も受け
ることができます。
ただ、「生き甲斐」や「社会とのつながり」を与えてくれたり、そのヒ
ントを提示してくれるところはなかなかありません。
(施設にも相談員はいますが、とても手が回らないのが実情です)
筆者は今回の記事を通して、このポジティヴヘルスという考え方を、日
本の医療や福祉にもプラスできないものかと思いました。
今迄、高齢者の皆さんやその家族が頼るところは、病院(医者)か介護
施設(介護事業者)でした。
でも、上記の図をもう一度真剣に見てみると、「病院や施設では全てを
解決することができない」ということがわかるのです。
健康寿命を延ばし、長寿を、幸せに全うできる新しい概念の実現に向け
て、今迄の病院・施設偏重の社会システムの構築・改善が必要です。
そうすれば、健康寿命を延ばし、社会保障費を抑制することができるの
ではないかと。
国民皆健康保険制度は、筆者が生まれてすぐの1961年に出来ました。
介護保険制度も2000年からスタートしています。
長い歴史の中で、もうそろそろ国民の幸せと健康の為にも様々な見直し
が必要になってきたと感じるようになりました。
8050問題、
9060問題、
老々介護、
介護離職、
年金だけでは生きていくことができない時代になりました。
高齢になったら、年金もらって、孫の成長を楽しみながら、悠々自適に
生きる。
そんな穏やかな老後を送れる人は、ドンドン少なくなっています。
筆者もたくさんの高齢者の皆さんと接する中で、「この国はこのままで
はいけない」と、真剣に思っています。
高齢になってもなんとか生き甲斐を持って、社会とつながりを保って、
健康寿命を延ばして生きていける国にしていきたいと願っています。
その為には、病院や施設に新たな社会システムを構築する必要性があり
ます。
加えて、上図のアクティヴヘルスの概念を長寿を目指す全ての人が理解
することも必要になってくるのではないでしょうか。
今回の記事も最期まで読んでくださり、感謝申し上げます。