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高齢期の不安の解消法(その1)

2023年04月15日
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筆者は今日、いきつけの散髪屋さんに行ってきました。

 

髪を切って、後ろから鏡で見せてもらうと、後頭部がかなり薄くなって
いることがわかりました。

 

更に進化してしまったようです(笑)…

 

ガックリと肩を落とし、あぁ~もう終わってるよな……

 

っと思わず呟いてしまいました。

 

いっそのことスキンヘッドにしてみようかと、お店の人に相談すると、
意外な言葉が返ってきました。

 

「まだ前はかなり(髪の毛が)残っているので、もったいないですよ」

 

あぁ…短気は損気だよな…っと思い直し、散髪を終えて店を出ました。

 

高齢期になると気になることがたくさん…

 

本当にたくさん出てきます。

 

以前の記事でもご紹介した高齢期の不安の正体「3K」

 

 

 

3Kで何が一番の不安?

 

 

 

以前の記事で、老後の不安について取り上げたことがありましたね。

 

その不安の正体は「3K」

 

「お金」「孤独」「健康」

 

この3つの頭文字をとって3Kでした。

 

物価高でお金の不安は、とんでもなく増幅されてしまいました。

 

そして、広がってしまった格差が孤独をさらに深刻なものにしています。

 

お金と孤独の不安が大きくなってしまった結果、ストレスが起因すると
考えられる健康不安も広がってしまったような気がします。

 

その健康不安、実はとても幅が広く、不安の深さ、大きさ共に高齢期の
生活に大きな影響を及ぼしているようです。

 

筆者も近年、施設や地域でたくさんの高齢者の皆さんと接してきました
が、この健康不安について多くの相談を受けてきました。

 

その中でも、とにかく多いのが下記に挙げた症状(不安)です。

 

・腰痛とその要因からくる足の痛み(歩いたり座ったりする際の痛み)

・(血行不良からくる)手足の浮腫み(特に足の浮腫み)

・過去の発病経験を持った人を中心に脳や心臓の血管障害への不安

 

そして、ADL(日常生活動作)には直接的に大きな影響を与えないもの
の、日常の生活の質そのもののを落してしまう耳の問題(聞こえないこ
とに対する不安)

 

腰痛や手足の浮腫み等は、治療や投薬で痛みや違和感を和らげることが
出来ますが、耳が聞こえないことは簡単には改善ができません。

 

殆どの方が補聴器を使っておられるのですが、効果が薄いのが実態です。
(効果がある方ももちろんおられることも事実ですが)

 

耳は一度悪くなると、(劇的な)改善は難しいのです。

 

 

 

画像素材:いらすとや 聞こえづらいと認知症の危険性も高まります

 

 

聞こえない事の苦しみ

 

 

 

筆者が参加していた地域の高齢者活性化活動、高齢者の皆さんが集まっ
てくる朝、会場ではウエルカムドリンク(珈琲)とウエルカムミュージ
ック(懐メロ)でお迎えをしていました。

 

懐メロで圧倒的な人気を誇るのが、美空ひばりさん(故人)です。

 

同じ年代の女性が多いことも影響しているのですが、高齢者の皆さんか
らすると神様的な憧れの対象でもあったようです。

 

ただその懐メロを楽しめない方もいるのです。

 

そう、難聴で殆ど聴力を失っている方も結構いて、

 

「本当はジャズが聞いてみたい」

 

と溢す方もいました。

 

筆者も何とかしてあげたいと思いながらも、高齢になると補聴器の効果が
出なくなってしまうことが多いようです。

 

ですから、補聴器を持っていても使わない方が多いのが実態なのです。

 

 

画像素材:いらすとや
補聴器を付けるのが面倒な人、付けても効果が薄いので付けない人
補聴器を持っていても着けない方が結構いるのです

 

 

福祉工学の必要性

 

 

 

読者の皆様は、「福祉工学」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

 

医療工学という言葉はよく耳にするけれど、福祉工学という言葉は聞い
たことがないと言う方が殆どではないかと思います。

 

心臓のペースメーカや人工臓器は、医療工学の範囲と言えます。

 

それに対して身体の機能に障害がある方々が、その機能を補助する為に
活用する機器や装置が福祉工学による産物と言えるのかもしれません。

 

筆者もこの言葉と、大学の研究所(大学院)で勉強している時に巡り合
いました。

 

目や耳、脳や手足の障害がある方に身体機能の支援をする目的で生まれ
た学問といえるでしょうか。

 

医療工学は「人間を改造」することになりますが、福祉工学は「人間の
非改造」を基本としています。

 

そう、福祉工学に基づく機器や装置は、失くしてしまったり弱まってし
まった身体の機能を何らかの形で補助するものだといえるのです。
(体にメスを入れることなく機能を補助するもの)

 

今迄は身体の機能に障害を持つ方々がその対象でしたが、高齢化が進展
していくこの国で、これから必要になってくるものになってくるのでは
ないかと感じています。

 

今回の記事から少しの間だけ、この福祉工学が高齢社会にどのように役
立つのかいくつかご紹介をしてみたいと思います。

 

 

 

福祉工学の研究拠点があるキャンパス もう桜は散ってしまったかも

 

 

聞こえない!

 

 

そこで、これから上記の不安の中から耳(聞こえない)の不安について
少し取り上げてみたいと思います。

 

聴覚障害は治すことがとても難しく、一旦悪く(聞こえなく)なると、
なかなか以前のような状態に回復するのが難しいのです。

 

お医者さんに行って薬をもらっても、なかなか治らない…

 

原因すらわからないことも少なくないようなのです。

 

そして高齢期になってからの聴覚障害は、内耳の機能低下が要因である
こともわかってきています。

 

耳の構造は読者の皆さんももうご存知かもしれませんが、外耳と中耳と
内耳に分かれています。

 

 

画像提供:株式会社ムトウ
耳の構造はとても複雑です
難聴はその要因から「伝音難聴」と「感音難聴」に分かれます

高齢期になると内耳の機能低下が顕著になり、感音難聴に注意が必要
なのです

 

 

中耳にある鼓膜より内側(内耳部分)はとても複雑な構造になっていま
す。

 

外耳を通じて入ってきた音は、鼓膜の内側にある耳小骨(ツチ骨・キヌ
タ骨・アブミ骨)を通って、カタツムリのような形をした蝸牛に入りま
す。

 

この蝸牛の中に外部から入ってきた音を脳に伝える受容体が1万6千個
並んでいます。

 

この受容体、人間の髪の毛のような形なので有毛細胞と呼ばれています。

 

この有毛細胞を経由して、外部の音が脳へと伝達されていくのです。

 

我々は、音は耳で聞いていると思っていますが、実は音は脳が聞いてい
るのです。

 

高齢期になると、この有毛細胞が欠損(死滅)する場合があることが
確認されています。(原因はよくわかっていません)

 

 

画像提供:株式会社ムトウ
左の画像が正常な有毛細胞、右は有毛細胞が損傷(死滅)した状態
こうなると補聴器でいくら大きくしても脳に音が伝わりません
画像上部が有毛細胞から脳に繋がる螺旋神経(聴神経)細胞です

 

 

補聴器は、外部からの音を増幅させる機能を持っていますが、音を大き
くできても有毛細胞に問題がある場合には、増幅された音でも脳に音を
伝えることができなくなります。

 

ですから、補聴器を使っても聞こえないということになるわけです。

 

蝸牛の機能を代替する人工内耳というものも、外国では開発されてきま
したが、この精密な構造の内耳を完全に代替えする迄には至ってはいま
せん。

 

ただ、福祉工学の進展は新たな技術に基づく機器を生み出しているよう
です。

 

今回の記事でご紹介する機器は、磁歪技術※を使った聴覚補助器で、前
述の有毛細胞が欠損(死滅)していても、外部の音を有毛細胞の内側に
ある螺旋神経細胞に伝達することが出来る優れものです。
※「磁歪技術」については今回説明を省きます

 

 

画像提供:株式会社ムトウ
磁歪式聴覚補助器の外観です。ヘッドホンの要領で耳に装着します。

 

 

筆者(右耳が難聴気味)も1か月ほど使ってみましたが、凄く聞こえま
した。

 

飛躍的に聴力(の質)が改善されていると感じたのです。

 

音の大きさだけでなく、補聴器で聞いた場合とは明らかに音の質が違っ
ていました。

 

試しに福祉工学の権威と言われている大学の先生(70歳を超えていて
聴力が少し衰えている)にも使ってもらいましたが、とても好評でした。

 

補聴器による改善感覚とは明らかに質が違うというのが使ってみた印象
だったのです。(全ての難聴者に効果があるわけではありませんが)

 

新しい技術で製品化されたばかりの機器ですので、まだ知名度が低いの
ですが、是非聴覚に問題がある高齢期の方々に使って欲しい製品です。

 

是非使ってみたいという方(高齢期以外の方も含めて)、親が聴覚障害
で困っているという方、補聴器を使っているんだけれど余り効果が無い
という方にも一度試して欲しいと思っています。

 

短期間であれば、貸し出しもOK(機器使用料は無償、機器送付・返送
費は自己負担)のようですので、ご興味のある方はブログの「お問合
せ」でご連絡をお願いします。

 

 

画像提供:株式会社ムトウ
磁歪式聴覚補助器の装着イメージです。
聞こえる事が素晴らしいことだと実感できる機器かもしれません。

 

 

高齢期になると、身体の様々な機能が低下していきます。

 

以前の記事でもご紹介したように、一説によると人間の構成要素である
各パーツの寿命は50年だとか…(脳だけは100年以上)

 

こう聞くと、高齢期での各機能の低下は当たり前ともいえます。

 

平均寿命がもう少しで90歳に届こうかとしている今、どうやってこの
大事なパーツの機能を維持(リカバー)していくのかを考える意味で、
福祉工学に基づく新しい機器や装置の登場は、暗闇の中の一点の明るい
光のようです。

 

これからも福祉工学の進展に期待を寄せるしかありませんね。

 

筆者がお付き合いしてきた高齢者の皆さんは、身体の不調を訴えた時に
行くお医者さんにショックなことを告げられてきたようです。

 

「歳だから…(仕方がない)」

 

これでは確かに不安は解消しませんね。

 

今回は、健康不安に対する新しい対処法が現れつつあることを読者の
皆様にもお伝えしたくて記事にしてみました。

 

これからもこの国では、更に深く高齢化が進んでいきます。

 

医者だけに頼るのではなく、この国が持っている技術力にも頼る時代が
きているのかもしれませんね。

 

次回の記事では、この新しい聴覚補助器の効果についてもう少し詳しく
触れて、人間の身体の仕組みの不思議さと凄さを読者の皆さんと一緒に
学んでみようと考えています。

 

是非、次回もお付き合いください。

 

 

今回の記事も最期まで読んでくださり、ありがとうございました。