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高齢期の不安の解消法(その2)

2023年04月22日
21

前回の記事では、高齢期での様々な健康不安について取り上げてみまし
た。

 

その中で、高齢期になると多くの方が抱える聴力の低下について、今回
の記事でも続けて読者の皆様と一緒に勉強していきたいと思います。

 

高齢になると、どうしても耳が聞こえづらくなります。

 

高齢者に話しをする際には、大きな声でゆっくり話しをすることが当た
り前にもなっています。

 

なぜ聞こえづらくなるのでしょうか?

 

人は、50代の頃から、400Hz以上の高音が聞き取りにくくなるそう
です。

 

更に60代になると、会話で用いられるそれ以上の高音である500〜
2000Hzの高音に対する聞き取り能力が大きく低下してしまうよう
です。

 

そして70代を超えてくると、2人に1人は難聴だというのです。

 

専門家によると、その要因は内耳にある感覚細胞や神経線維が劣化して
しまうからだそうです。

 

前回の記事でも取り上げた、内耳にある蝸牛の中の受容体(有毛細胞)
の欠損(死滅)が原因であると考えられています。

 

 

画像提供:株式会社ムトウ 前回の記事でもご紹介した有毛細胞画像
画像下部から伝えられた音を画像上部の脳への神経細胞に伝える役割
をしています 有毛細胞がないと脳への音の伝達ができなくなります

 

 

受容体という言葉は余り聞きなれないという方も多いかと思います。

 

受容体を辞書で引くと、

 

「人間の体にあって、外界や体内からの何らかの刺激を受け取り、情報
( 感覚 )として利用できるように変換する仕組みを持った構造のこと」

 

だそうです。

 

この受容体、レセプター(receptor)ともいわれています。

 

体中にこの受容体がありますが、耳の場合は外耳から入ってきた音をこ
の受容体である有毛細胞が情報として脳に送るわけです。

 

前回の記事でも書きましたが、音は耳で聞いているのではなく、脳で
聞いています。

 

この受容体である有毛細胞は1万6千本あるとご紹介しました。

 

渦巻き型の蝸牛の基底膜にピアノの鍵盤のようにズラリと並んだ多くの
有毛細胞は蝸牛の入口側が高音対応、奥に行くほど低音に対応していま
す。

 

蝸牛に入ってきた音は、蝸牛の基底膜を振動させながら奥へと伝わって
いく為、頻繁に振動している入口付近にある高音対応の有毛細胞が劣化
しやすいと考えられています。

 

ようするに、使うことが多い高音対応の有毛細胞が早く劣化する為、高
齢になると高音の音が聞こえづらくなるわけです。

 

でも、人間の体の各パーツの寿命が50年と聞けば、なんとなく納得が
できますね。

 

聞こえづらくなることは、決しておかしなことではないのです。

 

何か不摂生したわけでもなく、誰もがそうなるのです。

 

高齢になれば視力も低下して、頭の髪の毛も薄くなる。
(視力も頭も大丈夫な幸せな方もいますが…)

 

ある意味、長く生きた証でもあるのです。

 

 

いつまでもハッキリと「見える」「聞こえる」はとても大事なこと

 

 

新しい技術への期待

 

 

筆者もこのような知識は大学の研究所(大学院)で勉強するまでは、全
くありませんでした。

 

前回の記事でも述べたように、福祉工学は今迄身体機能に障害を持った
方々を救う目的で発展してきました。

 

しかしながら、今この国で進んでいる高齢化を見ると、高齢化対応にこ
そこの福祉工学が必要になってくるのではないかと筆者は感じています。

 

人生が長くなってしまったことによる様々な問題を解決する新しい技術
がこの国には必要なのです。

 

この新しい技術がこの国を救うだけでなく、世界を救う可能性もあるの
です。

 

この国の後を追うように高齢化していく東アジアの国々(の高齢者)も
救えます。

 

そして、この新しい技術はこの国の新しい産業になる可能性すらあるの
です。

 

その為には、多くの高齢期を迎えた方々に福祉工学をベースにした機器
や製品、サービスを使って頂く必要がありますが。

 

(買って頂いて)使ってもらって、普及しないと値段も安くなりません
から…

 

 

とっても勉強にもなります

 

 

福祉工学の勉強をしていると、人間の身体ってこんなになっているんだ
とわかることが多いのです。

 

例えば、前述の有毛細胞ですが、実は魚のある部分によく似ているそう
です。

 

我々人間は、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の5つの感覚(五感)を使
って日常生活を送っています。

 

魚にはその五感以外に第六感ともいえる感覚器があるのです。

 

それは魚の表面にある「側線」です。

 

魚を横から見ると、エラから尻尾に向かって線や模様のように横方向に
並んでいるのが側線で、よく見ると極小さな穴が並んだ点線のようにな
っています。

 

魚が水中で水圧や水流の変化を感じとる為の器官だと考えられているも
のです。

 

ある意味、魚にとっての聴覚といってもいいのかもしれません。

 

この「側線」、センサーのようになっていて、自分を狙う大きな魚の接
近を知らせたり、餌である他の魚や水中生物の動きを察知する為に使っ
ていると考えられています。

 

人間のご先祖様は太古の昔、海の中にいたということなのですが、こ
の「側線」が進化の過程で、陸に上がった人間のご先祖様の耳(有毛
細胞)になったという説もあるほどです。

 

不思議なことに、内耳の蝸牛の中はリンパ液(水分)で満たされてい
るのです。

 

そう、海の中の環境をそのまま遺伝しているような感覚です。

 

 

画像素材:Jim Mayes   
人間の身体の中にも水(水分)で満たされた部分があるなんて驚きです

 

 

こう考えると、人間の耳は他人と会話する為に発達したものではなく、
外敵を察知したり、食べ物を探す為に進化したものであることがわかり
ます。

 

ただ、人間は過去にこんなに長く生きたことがないのです。

 

こんなに沢山の人間が高齢期を迎えたこともないのです。

 

国の政策(年金対策)で70歳迄働ける社会になりつつありますが、そ
の時点で2人に1人が難聴になると考えれば、社会として何らかの対策
が必要だとも言えます。

 

これから更に高齢化していく日本。

 

高齢化に対応する為に新しい技術を開拓しておく必要があるのです。

 

ただ、今迄ご紹介してきた福祉工学の歴史は苦労と挫折の連続だったよ
うです。

 

研究者もまだまだ少ないのが実態でもあるのです。

 

これから高齢化を支える為の福祉工学の進展を願うばかりです。

 

この福祉工学について理解を深める為の素晴らしい書籍があります。

 

日本における福祉工学の第一人者である伊福部 達先生(東京大学/
北海道大学名誉教授)のこれまでの挑戦を通して、この国に福祉工学
がどれほど必要であるかが理解できる本です。

 

ご興味がある方は是非目を通してみてください。

 

 

 

 

 

 

 

もしかすると、今お持ちの既存の技術がもっとこの国の高齢化の為に役
に立つかもしれないのです。

 

身体が弱ってしまった高齢者を施設で救うことだけでなく、高齢になっ
て身体の機能が低下しても、新しい福祉工学の技術を使ってサポートす
る。

 

そんな素晴らしい高齢社会になって欲しいものですね。

 

 

 

大空を翔る鳥の声、風が揺らす小麦の音、そんな自然な音を自然な形で
いつまでも聞いていたいものですね

 

 

 

今回の記事は、前回の続編として福祉工学というテーマに触れてみまし
た。

 

高齢になっても、いつまでも鳥のさえずりやゆりかごのような風の音を
楽しんでみたいと思うのは、ごく普通のことです。

 

幸福に、そして健康に、人生を全うする技術がこの国にあれば…

 

またこのテーマ、取り上げてみたいと思います。

 

 

今回の記事も最期までお付き合い頂き、感謝申し上げます。