1億総活躍社会は実現するのか
今回の記事は、前回の続編となります。
前回の記事では、少子化に歯止めがかからない場合、この国がどうなっ
ていくのかを考えてみました。
今回の記事では少子化対策の大きなヒントでもある「1億総活躍社会」
について筆者なりの考え方をご紹介してみたいと思います。
今の少子化対策が本当に正しいのか?
もっと視点を変えれば、別の施策もあるのではないか…
どこにお金を使うべきなのか…
筆者は学識者でも国や自治体の政策を考える役人でもありませんが、
お付き合いを願えますとありがたい限りです。
出生率と経済の関係
まず厚生労働省が公表している出生数・合計特殊出生率の推移を見てみ
たいと思います。
グラフは2019年までしかありませんので、その後は筆者が先日の記
事でまとめたグラフを参考として参照してみてください。
出所:厚生労働省ホームページ
このグラフと以前の記事でご紹介したことのある経済成長率のグラフを
見比べると出生数と経済の成長率との間には相関関係があることがわか
ります。
以前の記事でもご紹介した経済成長率の推移グラフです
出生数はその時の経済状況と関係性があるようです
バブル崩壊以降、低迷を続ける経済成長率とともに出生数も下がり続け
る傾向にあるからです。
低迷する経済成長率と同調していたのが、労働者の賃金です。
物価高に苦しむ最近になって賃金はようやく上がってはきましたが、
物価の上昇率には届いてはいません。
それよりも、この30年以上も賃金は上がってはいなかったのです。
それが大きな問題なのです。
以前の記事でご紹介したとおり、横ばいどころか下がっています。
以前の記事でもご紹介した賃金の国別上昇率です
哀しいことに日本だけ下がっているのです
これでは将来の不安は大きくなるのも理解はできそうです
この現象は、非正規の割合が大幅に増えたことも影響しているのかもし
れませんね。
高度経済成長期の初期には決して高いとは言えなかった日本人の給料は、
経済成長と日本の雇用制度(年功賃金)の恩恵を受けて上がり続けまし
た。
この上がり続ける給料に将来の不安を払拭する大きな力があったのです。
将来の収入を見込むことができたからこそ、家も購入できたし、子供を
もうけることもできたのです。
もう一人(子供が)欲しいよね…
そんな会話を夫婦間で交わすことができたわけです。
それが、将来の生活不安が頭の中にあればどうなるのか…
適齢期の若者の頭の中にあるその不安が大きければ大きいほど、少子化
は進みます。
空を覆うような漠然とした不安が、プラス思考に影響を及ぼしています
将来に家を持つことも諦めないといけないような若者は、結婚も諦める
かもしれません。
若者もキチンと将来設計ができる賢い方が多いようです。
将来に希望があれば、結婚もするし、子供ももうけます。
まず若者を将来設計もできない状態にしているこの「非正規」と「低賃
金」を何とかしないといけないのです。
いくつかの国では法律で非正規を禁止する国も出てきました。
資本主義の矛盾と闘う国も出てきたことは確かですが、資本主義の制度
を抗うことは容易なことではありません。
非正規が悪だと言っても、簡単には非正規はなくなりません。
それよりは経済の好循環を回すことの方が先決かもしれないのです。
企業は高収益なのに景気は悪いというこの変な状況は、消費の低迷に
あるのではないかと筆者は考えています。
物価高で買い控え
給料が上がっても、物価上昇率には届かない
だから転売ヤーがこんなにも増えたのかもしれませんね。
いろいろな理由はありますが、お金を使わなくては経済の好循環は生ま
れません。
お金が無い人にお金を使えと言ってもそれは無理です。
お金がある人にお金を使ってもらい、経済をうまく回していく。
さぁ、そう考えると、お金を持っている人は誰でしょう。
それはお金持ち…
当たり前ですが、
お金を持っていながら使わない人がこの国にはたくさんいるのです。
資産(預貯金)をたくさん持っているのはどの世代でしょうか。
そう高齢期の皆さんです。
(全ての高齢期の方々という意味ではありません)
政府統計数値(2017年)を元に筆者がグラフ化してみました
貯蓄額から負債額を引いたものが保有資産だとするとハッキリします
上図はあくまでも平均値ですので、全ての高齢期の皆さんが資産を持っ
ているわけではありませんが、どの世代がお金を持っているのかわかり
ますね。
若い世代は、子育てや家のローン等でお金の余裕がありません。
反面、高齢期の皆さんは退職金が入り、子育てや家のローンが終わるこ
とで余裕ができるのです。
高齢期の皆さんが持っている資産の総額は、大企業が保有している内部
留保よりも大きいという研究者もいるくらいです。
では、なぜ高齢期の皆さんは持っているお金を使わないのか?
それは若者が子供をもうけない(結婚しない)理由と同じです。
そう、将来の不安からお金を使わず持っているのです。
将来、年金はどうなるかわからない…
将来、大きな病気に罹り高額の医療費がかかるかもしれない…
結果として、高齢期の皆さんが保有する資産(お金)は市場には出てこ
ないのです。
ようするに消費に回らないのです。
そして、経済も回らない…
最近になって企業の退職金は激減しているそうです。
また、長く続いた給料の伸び悩みはもらえる年金をも圧縮しているよう
です。
早く手を打たないと、資産(お金)のない高齢期の皆さんがドンドンと
増えてしまいそうです。
上図のような状態は長続きしない可能性が高いのです。
そう、今がチャンスなのです。
資産(お金)を持っている高齢期の皆さんにお金を使ってもらえるよう
にするのはどうしたらいいのか…
それを考える必要があるのです。
希望へのシグナルを感じることができるような施策が待ち望まれてので
す 今は澄んだ虹色にはなってはいません 不安色の虹なのです
高齢期の皆さんの将来の不安を払拭する
高齢期の皆さんが持っている将来の不安を払拭する方法があります。
それは、(元気であれば)働くことです。
働いて少しでも収入があれば、必ずそのお金は消費に回ります。
多ければ多いほど良いのです。
将来の不安が緩和されるほど、余裕が出た分が消費へと回っていきます。
この国の高齢化率を考えれば、その効果は絶大です。
70歳を超えても働く高齢者が増え続けていますが、その殆どが不安定
な非正規で超低賃金で働いています。
加えて過酷な労働条件で働く高齢者も少なくありません。
こんな状況では、働くことを諦める高齢者も少なくないと思います。
ここを改善できれば、もっと多くの高齢者が働き、将来の不安を払拭し
ながら経済に貢献してくれる筈です。
ただ、これを企業任せにしたり、中途半端な額の高齢者雇用補助金で対
応しても過去の失敗を繰り返すだけです。
筆者は国や自治体主導の新しい「高齢者雇用制度や仕組み」を創設すべ
きだと考えています。
資本主義の市場原理に任せていては、何も変わらないのは確かです。
以前に記事でもご紹介したことのある「協働労働」の仕組みを複数の職
種で実験的に実施することも、その一つかもしれません。
「公益資本主義」を実践する企業を税制面で支援する方法もあります。
すぐには結果が出ないかもしれませんが、高齢者の皆さんが保有する資
産をこの国の為に活かす最後のチャンスだと筆者は考えています。
見晴らしが良くて、将来が見通せれば、チャレンジもできるのですが…
筆者は、常々「少子化」と「高齢化」の対策をバラバラに考えるべきで
はないと考えています。
これから少子化の影響を一番受けるのは高齢者の皆さんです。
このまま少子化が加速すれば、社会保障制度の存続が難しくなるからで
す。
国難ともいえる高齢化を逆手にとって、(元気な)高齢者をもっとこの国
の為に活用する。
その身体も資産も活用する施策や仕組みが必要なのです。
多くの高齢者の皆さんを
「(国に)支えてもらう立場」
から
「(この国を)支える立場」
に置くことが、国難である少子高齢化に対抗する為の特効薬だと考える
のは筆者だけではないと思っています。
この高齢者活用の施策を早く打っていくことが、2030年のタイムリ
ミットに対応する方法の一つではないでしょうか。
子供手当も大事かもしれませんが、効果が大きいのであればもう結果が
出てもいい筈です。
今の少子化対策だけでは、出生数は改善しないのです。
このままタイムリミットを迎えるのか…
それとも新たなチャレンジをするのか…
高齢者の皆さんも、このまま年金制度が破綻していくのを指をくわえて
見るだけなんてことをしたいわけではないのです。
高齢期の皆さんが、この国を支えることに力を貸してくれると筆者は信
じています。
今回の記事は、2週連続で少子化についてのショッキングなニュースに
ついて考えてみました。
最後までお付き合いを頂き、感謝申し上げます。